宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

民族、文化、文明と国民国家

2022年5月14日   投稿者:宮司

 20世紀の初めから、第二次世界大戦の戦後にかけて、様々な国民国家が誕生した。いわゆる民族自決主義である。

 それでは、民族とはなんであろう? 一般的には、「一定地域に共同の生活を長期間にわたって営むことにより,言語、習俗、宗教,政治,経済などの各種の文化内容の大部分を共有し,集団帰属意識 (Ethnic Identity)によって結ばれた人間の集団の最大単位をいう」(ブリタニカ百科事典) これは、人類学で言うEthnic Group である。

 一方、政治学的には、国民国家を形成するNationも、民族と同義とされる場合がある。本ブログ中の「ユダヤ・ナショナリズム」で述べたように、啓蒙思想から生まれた『国民(社会構成員)の全てがその存続に責任を持つ国家』の国民は、その同質性のゆえにNationと呼ばれるようになった。ユダヤ民族は、ユダヤ教の信者であるということだけで民族を称している。なお、誤解のないように付言すれば、イスラエルはユダヤ民族、アラブ民族を中心とする多民族国家である。旧ソビエト連邦は、共産主義という共通項で近代国家を作った。プーチンが、旧ソビエト連邦に所属したウクライナの人々を同一民族と誤解しているのは、Nationの誤解に基づいているのかもしれない。

 いずれにしても、民族とは、本来、Ethnic Groupとして理解されなければならない。つまり、言語、衣服、住居、生活習慣、宗教、社会制度などが共通している社会集団で、その集団への帰属意識を持っている人々のことを言うのである。

 より簡潔に言えば、民族とは、共通の文化を持ち、同一の帰属意識を持った集団である。

 ところで、社会の近代化は、文化の特徴的な差異をなくす方向に人類を導いた。

 つまり、近代化の結果として世界中の都会に暮らす近代的な人々は、同一の衣服、同一の住居、同一の政治・経済の社会制度、同一の交通インフラ、同一の電気・水道・ガス等の生活インフラなどすべて同一の生活環境の中で暮らすようになった。異なるのは言語くらいであるが、その言語さえも、近年では、国際会議や国際企業では英語が共通言語として常用されるようになった。

 家には、電気冷蔵庫、電気掃除機、電気洗濯機、空調設備、テレビ、スマホ他の通信装置を完備し、同じようなフォーマルとカジュアルな衣服を着用し、自家用車に乗り、公共輸送機関に乗り、飛行機に乗り世界を自由に移動する。国境を超えて諸個人が意思疎通し、情報を共有し、自由に意見を表明し、そして協働して世界の人々が必要とする消費財や生産財をグローバルなサプライチェーンのもとで産出している。

 これは、民族の差異の解消を意味する。過去には、エジプト文明、インダス文明、中国文明、ギリシャ文明等々、文明の内容は様々であったが、近代文明は同一の生活環境を人類に準備したのである。

 民族の違い、国民国家の違いを超えて、人類は共通の社会制度のもとで暮らすことを追求するようになった。経済的には市場経済、政治的には民主主義である。ともに、啓蒙思想から生まれた「全ての人間は、自由で平等である」という理念のもとに構想された制度である。


もちろん自由と平等は両立しない。自由を求めれば格差が生じ、平等を求めれば不自由が生じる。この矛盾は、常に繰り返して社会制度を見直し続けることによって、解決されるものである。

 市場経済と対立する計画経済やブロック経済、民主主義と対立する権威主義や独裁主義は前時代の遺物であり、それらは、近代化以前の、力による支配、被支配の関係が人類社会の骨格を作っていた時代の産物である。

 ロシアは権威主義と疑似市場経済、これに対しウクライナは民主主義と市場経済の国家であり、社会制度が根本的に異なっている。2014年のロシアのクリミア侵攻と併合以降にウクライナは変わったのである。プーチンはそのことを見誤っていた。

 中国は市場経済、しかし共産党が指導する権威主義の国家である。テクノクラート(技術官僚)はほとんどが米国で最終教育を受けている。従っていずれは権威主義を捨てて民主主義に変質していくであろう。

 このように考えてくると、現在のウクライナ戦争や発展途上国内の内戦や権威主義の政権による人権侵害などは、すべて世界が近代化する過程の最終的な軋轢であるように見える。

 世界の人々は、現在の難題を乗り越え、世界中が、文字通り平和で豊かな社会、自由で平等な社会、人権が守られ犯罪のない社会となるように努力しなければならない。それは、IARF(国際自由宗教連盟)や国際ロータリーの目標でもある。        (2022/05/14)

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