宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

中国型資本主義の未来

2021年11月15日   投稿者:宮司

 最近、中国経済の方向転換が話題になっている。新自由主義型資本主義から抑制の効いた社会民主主義型資本主義への転換は、洋の東西を問わず世界的な傾向にあることは以前に述べた。

 中国も例外ではなく、野放しの新自由主義から共同富裕をスローガンとする分配重視の資本主義に変わろうとしている。

 そこで、不動産バブルの解消を狙いとして不動産市場の規制を強め、恒大集団をデフォルトに追い込み、IT企業の法外な収益を社会に還元させることにより自己規制させ、進学教育市場を禁止し、ついには芸能界や個人の美意識にも規制をかけ、国民の歴史教育、特に共産党成立以降の歴史を現在の独裁者の習近平中心に書き換え、SNSにも広範に監視の目を光らせ、六中全会では独自の社会主義的資本主義路線を礼賛している。

 これを見た経済学者の一部からは、資本主義は必ずしも自由主義や民主主義と一体ではなく、中国は中国独自の資本主義を発展させているとして評価する動きもある。果たしてそうであろうか?

 元々、資本主義の要は、マックス・ウエーバーが喝破したように、合理性と効率性を追求する中央集権的な権力とそれを支える官僚制、そして資本主義発展の元となる原始的資本蓄積である。そこに取引の自由を保障すれば資本主義が開花する。西欧では、偶々取引の自由は、啓蒙思想より生まれた個人の自由を基礎とする社会という発想から生まれ、資本の蓄積は金融資本家とそれに続く産業資本家の出現と科学技術革命を基礎とする産業革命によりなされたのである。

 中国の場合は、鄧小平以来、法律によって経済的取引の自由を保障し、国家財政によって社会資本を整備し、外国資本を強烈に呼び込むことによって初期資本主義の離陸とその後につながる経済成長を可能としたのである。そしてそれを支える中央集権と官僚制は共産党独裁政権によってすでに確立していた。

 ソビエト連邦(ロシア)は、中国より先に中央集権的官僚制を整備していたが、中国のような発想に至らず、コメコン諸国と共に自力で共産主義経済を作ろうと試みたが、途中で頓挫し、中国のように資本主義経済を導入するのではなく、共産党独裁という政治の解放に手をつけ、ロシア等の多党制の共和国に変身し、市場を解放したが、外国資本の参入を積極的に促さず(例えば、中国のように各所に工業団地を開設し、外国資本の工場を並べることなく)、経済成長につながる人口増加が足踏みし、緩やかな成長のもとで現在に至っている。

 ベトナムやインドネシアやシンガポールやマレーシアや台湾にも見られるように、中央集権制と官僚制が完備されていれば、資本主義の発展は、指導者がその気になって社会資本を整備し、市場を世界に解放すれば、経済成長は自動的に始まる。むしろ初期においては権威主義の政治が意思決定を容易にするので、望ましい。

 しかし、実際に資本主義経済が離陸すれば、それが発展すればするほど、個人の自由な取引を基礎とする経済システムは、政治における個人の自由な行動を求めるエネルギーを生み出し、権威主義を民主主義に変えていく。そのようにして、インドネシアやシンガポールやマレーシアや台湾は民主化した。中国における天安門事件は、そのような脈絡の中で、知識人を主体としてかなり初期に生じた。これを鄧小平が力で押さえつけ、現在に至っているが、中国民衆の政治の解放を求めるエネルギーは、経済の成長とともに充満しつつある。これを脅威と見た習近平政権は、少数民族の弾圧と同化、政治支配層の腐敗の除去、そして共同富裕という貧富の極端な差の解消を打ち出したのであろう。

 だが、現在の中国の経済政策は、諸刃の剣である。市場に規制をかければかけるほど、経済成長は鈍化する。まして、世界のサプライチェーンの真ん中で繁栄を謳歌していた中国も、デカップリングの脅威にさらされ、また、労働賃金の上昇も成長の妨げとなる。内陸部と沿岸部の経済格差を活かして、都市開発を内陸部に拡げていくことが成長を持続させる策となるが、これは、中国人民全体の意識を民主化に向かわせることとなろう。

 つまり、習近平政権に残された道は、政治的な弾圧を強めながら、経済成長を続けるという離れ業を永続しなければならない。これは遠からず破綻すると思われる。中国型の資本主義は、かくして崩壊するであろう。  (2021/11/15)

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