宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

人類史のカギを握る中国

2021年2月6日   投稿者:宮司

 中国は今、難しい位置にある。

 77億人と言われる現在の地球上人口の内、14億人が中国人であることを考えると、中国のこれからの振る舞いは、人類史を左右するであろう。その意味で、中国の責任は重い。

 古代から、人類は生き延びるために互いに殺し合いを繰り返してきた。それは生きるために必要な物資の生産力が低かったからだ。幸いに、近代化を経て、科学技術を手に入れ、政治システムとしての民主主義と経済システムとしての自由主義市場経済を手に入れた人類の生産力は爆発的に増大し、それまでのような奪うための戦争は無意味なものとなった。しかし、近代化に付随して生まれた国家の時代は、それぞれの国家の勢力争いをもたらし、その意味で、20世紀は戦争の時代となった。 21世紀となって、人類の直面する主要な課題はいくつかに絞られてきた。一つは人口の増加と資源の枯渇、自然環境の汚染ないし破壊の問題である。人口の増加は資源と環境の問題に直接結びついている。しかし、幸いなことに、人間は生活が物質的に豊かになると、人口増加が減少に転じる性質を持っている。国連の人口増加の見通しも、それを示している。今世紀中にアフリカや南アジアなどの9つあまりの国々で主要な人口増加が見込まれ、その他の地域では人口は減少に転じる。21世紀の終わりには、地球人口は100億を超え、その後は減少に転じるというが、もっと早く人口のピークが来るかもしれない。最近「人口減少の時代」というテーマが脚光を浴びているのも、そういった見通しを示すものだ。しかし、それは、生活物資の生産力が順調に増加し、全ての人々の生活が豊かになっていくことを前提にしている。このような見通しの中で、「持続可能な開発」という命題が設定されているわけだ。パリ協定で目指されている地球温暖化の防止もまた、そのような枠組みの中で必要不可欠なものだ。

 もう一つは、現在のところ、人類社会のあるべき姿として、共通の価値観となってきた民主主義と自由主義市場経済をいかに安定的に維持していくかということである。昨今の米国社会の現状を見ると、その価値が揺らいできているかのような錯覚に陥るかもしれない。しかしそれは間違っている。民主主義の揺らぎは、経済市場のグローバル化がもたらしたいくつかの結果が影響している。つまり、移民による文化摩擦の問題、国家意識の希薄化に伴う政治の大衆化(ポピュリズム)の問題、グローバル化がもたらす国内産業の空洞化による産業淘汰の軋轢の問題等である。

 第一次、第二次の世界大戦と米ソ冷戦を通じて、人類は全体主義や共産主義という非民主的な政治体制を否定して現在に至っている。今の所、社会を構成する諸個人の個性を認め合い、自由と平等を共に尊重する政治システムとして民主主義以上のものはない。繰り返すが、全体主義や共産主義は決して選んではならない体制である。

 さて、中国の問題を考えてみよう。中国は今、世界の経済成長の牽引車となっている観がある。これは、共産主義の計画経済に限界を覚えた鄧小平が、政治体制は共産党独裁のままで、自由主義市場経済の導入に踏み切ったからだ。時期も幸いした。米ソ冷戦が収束していく中で、中国を味方につけたい米国は中国の経済開発を支援しそれが政治の民主化につながることを期待する関与政策を基本とした。これはオバマまで続く。世界の資本が安価な労働力を求めて中国に殺到し、情報化時代の到来とも重なって、グローバルなサプライチェーンの中心として中国経済は大発展を遂げたのである。

 しかし、鄧小平は、政治的には民主化を決して認めようとはしなかった。自身が導入した市場システムを社会主義市場経済と呼び、胡耀邦や趙紫陽が進めようとした民主化を妨げ、あくまで共産党独裁のシステムに固執し、現在の中国に至っている。

 中国経済は70%の外資に支えられ、その利益は米ドル債券に依存している。国際通貨としての中国元は未だ5%以下の流通量であり、米ドルとのリンクなくしては通用しない。一方、中国のGDPは米国に次ぐ世界第二位であり、さらに増加が見込まれ、2028年には米国を抜くと言われている。沿岸部では労働賃金が上昇したが、内陸部では安価な労働力が未だ豊富であり、まだまだ発展の余地がある。しかし、これらの経済発展は、すべて、グローバルな経済リンクを前提としている。

 しかるに、近年の中国は、豊かになった国力を基礎として、軍備を充実させ、国威の伸張を図り、日本を含む周辺諸国と軋轢が絶えない。内では香港の民主化の要求を弾圧し、あまつさえ、チベットやウイグル自治区に多数の漢民族を入植させ、少数民族の独自性と文化を危機に追いやっている。東京大学の平野教授の指摘によれば、中国年鑑の少数民族統計に従えば、2017年中に新疆ウイグル自治区のウイグル族の人口は157万人減少している。それ以前には微増であったことを考えると、この年にジェノサイドと言ってよい大虐殺が行われたことは間違いない。この虐殺は、歴史に残り、中国サイドは否定しているが、これから世界の批判と検証にさらされるであろう。ナチスのユダヤ人虐殺にも匹敵するこの大殺戮を世界は見逃さない。中国は厳しい批判に晒され、世界のサプライチェーンの要から徐々に外されていくであろう。すでに米国は対中国政策の転換を行い、中国締め付けに向かうことは、昨年7月のニクソン記念図書館前でのマイク・ポンペオ氏の演説に示されている。ちなみに対中国関与政策の基礎を作ったのは、米中接近を成したニクソンである。

 中国は、経済のグローバル化により、大発展を遂げたにも関わらず、政治的にはナショナリズムに酔いしれ、国威の発揚と全体主義化に向かっている。それは昭和初期の日本を彷彿とさせる。これから中国は世界の諸国から厳しい叱責を受けることになる。経済の発展無くして中国国民の不満を解消することはできない。おそらく、中国は、習近平政権の早めの退陣を行わざるを得ない。そして曲がりなりにも民主化を受け入れるポーズを取らざるを得ないであろう。最も悲劇的な結末は、中国軍部が暴発することだが、情報化が発達した今日では、極めて可能性は少ないと思われる          

 先に述べたように、人類は喫緊の課題を解決するためには、地球規模の経済開発をさらに進めていかなければならない。そうすることによってのみ、様々な紛争や対立が解消され、資源や環境の問題も解決に向かうであろう。
 
 人類の歴史がさらに進んでいくためには、今現在の中国の動向が重要な鍵を握っている。政治と経済の矛盾を解消し、民主主義と自由主義市場経済という世界の共通価値に同調し、共に発展していくか、それとも人類史の波乱要因となり亡国の憂き目を見るか、中国にとっては正念場であろう。 (2021/02/06)

世界-中国論-経済