宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

ポピュリズムの克服

2020年11月29日   投稿者:宮司

 近代化による民主主義と資本主義の発達は、国民国家、すなわちネイションの創設を促した。

 遅れて提示された社会主義や共産主義の国家も、インターナショナルの掛け声とは裏腹に、それぞれの地域での国民国家というネイションを基盤として成立した。すなわち、近代化はそれまでの前近代の社会の中で階層化されていた諸個人を、民主主義、資本主義、そして社会主義や共産主義といった理念の中で、平等化し国家の成員として基礎付けるシステムの中に放り込んだのである。もちろん実態としては諸個人には様々な格差があったのだが、理念としては、すべての国民の合意による主権国家が誕生したのだ。

 これは民族自決主義とも重なって、19世紀から20世紀まで続く、国家の時代を作った。その国家のせめぎ合いの中で、様々な戦争が勃発し、第一次、第二次の世界大戦を経て、米ソ冷戦がそのピークであった。朝鮮戦争やベトナム戦争も、その枝葉と言える。

 そして、冷戦終了後、情報社会の到来とも重なって、人類の技術力は一気にグローバル社会を実現した。栽培化と牧畜の始まりが第一次の産業革命、蒸気機関の発明に始まる機械化が第二次の産業革命とすれば、情報化とグローバル化はさしずめ第三次の産業革命と言えるであろう。

 情報化は、諸個人を点として、情報の網の目のネットワークで結びつけたので、あらゆる面で個人化が進み、民主主義の社会にあっては、階層の個人化が一気に進み、階層集団を基礎とする代議制民主主義を危機に追いやった(拙稿「個人化と民主主義の将来」参照)。

 グローバル化は、分業の究極としての世界的なサプライチェーンを作り出し、あらゆる製品が、大量に、安価に、行きわたるようになった。他方、環境破壊や資源の枯渇の進展は、人類が持続可能な発展に向けてグローバルに結びつくことを必然とした。このまま進めば、遠からず、共存と共生の地球社会が実現するかと思われた。

 しかし、グローバル化は、一方では、発展途上国から先進国への多量の移民と難民を生じさせ、文化摩擦による犯罪やテロリズムを生んだ。また、グローバル化に伴う先進国経済の一層の自由化は不採算の産業を淘汰し、貧富の差を極大化させた。結果として、各地で、反グローバリズム、反民主主義につながるポピュリズムが出現した。現状の世界はこのように理解することができる。

 つまり、グローバリズムによる国民国家の弱体化は、ネイションを基礎として結びついていた諸個人を解体し、流動化した諸個人はポピュリズムの担い手となった。

 ポピュリズムは、先進国を国家主義に戻し、発展途上国はますます混乱し、窮乏化していくように見える。しかし、その方向に進めば、遠からず、世界的なサプライチェーンは崩壊し、保護貿易と自主独立の風潮は再び世界を戦争の危機に晒すであろう。待った無しの環境破壊への対応は忘れられ、人類は生き残りをかけた戦争を行うこととなる。すなわち二重の意味で人類の滅亡である。

 これを救うには、細分化された諸個人が有り余る情報の洪水の中から、選択的に正しい情報を集め、人類の共存と共生にむけた地球社会の実現に再び取り組む他はない。諸個人の平等意識によって国民国家が成立したように、諸個人の平等意識によって、地球規模の共存社会を実現しなければならない。そのためには、教育の充実によって、人々の社会意識を高め、強靭なものとし、誤った情報による世論操作に人々が惑わされないような社会を構築することが必要である。                               (2020/11/29)

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