宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

トランプ政治の4年間

2020年11月6日   投稿者:宮司

 これを書いているのは、米国大統領選の開票が始まっている時である。激戦州はトランプが勝ちそうであるので、トランプ再選ということになるであろう。私の6月時点での予想は見事に外れた。


 これは何を意味するか?トランプの最初の当選時点での公約と達成度を調べてみた。大型の法人税の減税、中国の為替操作国指定、輸入関税の引き上げ、TPP離脱、NAFTA見直し、エネルギー開発規制の緩和、金融税制の緩和、入国審査の厳格化、米国大使館のエルサレムへの移転、パリ協定離脱、これらは達成できた公約である。言動の不安定さにも関わらず、達成率は高い。これが再選の勝因である。有権者は、その人となりには辟易しているが、政策の実現性にポイントを与えたのであろう。
 法人税の減税と金融税制の緩和とエネルギー開発規制の緩和は、富裕層と関連企業にメリットを与えた。中国の為替操作国認定は、交渉により中国の経済的な譲歩を引き出し、数ヶ月で取り下げた。輸入関税の引き上げは国内企業の生産を助ける目的であったが、一方で、消費者物価の上昇を招き、ラストベルトや一般の下層労働者の生活は良くならなかった。TPP離脱、NAFTA見直し、パリ協定離脱は、国内の産業の現状のままの保護には功を奏したが、米国と同盟国との仲を切り裂き、自由主義の人類史的な進歩に大きく水を差した。このことは自由主義や民主主義の限界を示し、権威主義の国々を勇気付かせることとなった。
 アメリカファーストは、つまるところ世界との協調を捨てて、自国の目先の国益を優先するということであったし、経済政策は、富裕層と石化関連の企業を中心とした大企業を喜ばせたものであった。しかしトランプを熱狂的に支持した低所得の白人労働者たちはさほど恩恵を受けなかった。
 ラストベルトの人々は再度トランプを選んだようだ。これはある意味、トランプの話術やツイッターによる見事な人心掌握術に支配されたということだ。。ポピュリズムの極みである。 トランプが達成できなかった公約は、インフラ投資、国境の壁建設、財政再建、オバマケアの廃止、イスラム教徒の入国禁止である。根本的な経済成長の要となる政策と、無茶な政策は失敗したということだ。無茶な政策である壁の建設や医療保険の廃止やイスラム教徒の入国禁止などは、実現できなくてよかった。しかし、インフラ投資は経済政策の要であるが全く進めることはできなかったし、財政再建は進まず、双子の赤字は解消しなかった。ただし、米国は国富が十分であるので、財政規律はそれほど重要ではない。
 このようにみてくると、決して、良い政治をしたわけではない。しかし、ポイントは、富裕層と企業を喜ばせ、株価を吊り上げ、労働者層には、とりわけ白人労働者層には結果は伴わなかったとしても夢を与えたということだ。
 実は、米国民主党は、本来、進歩派の知識人と労働者と非白人の人々が当初の支持基盤であった。同じく共和党は、保守的な農民層や福音主義者達、そして石油産業と軍需産業が支持基盤であった。ところがレーガン以来の新自由主義的な経済政策によって白人中流層が没落し、国内の貧富の差を際立たせるとともに、冷戦終了後起こったIT産業と金融業を中心とする新しい産業による富裕層が生まれ、民主党は、労働者からインテリを中心とするそれらの新エスタブリッシュメントともいうべき人々に支持基盤を移していった。そこで、トランプが出現し、没落した白人労働者に声をかけ、環境政策の中で危機意識を持った石油石炭産業の人々に声をかけ、人種差別を際立たせることによって保守的な共和党の支持基盤を確実に掴み、ポピュリズムの政権を生み出したのである。

 この原稿は11月3日に書き始め、現在は4日である。選挙情勢は一夜にして一挙に変化し、ラストベルトのミシガン、ウイスコンシンではバイデンが当確となった。情勢は民主党バイデンの勝利に近づいている。これは、やはり、この4年間にトランプから夢を見させられたが、結果的に実質的な恩恵を受けられなかった白人労働者層のトランプ離れが原因のようである。
 私の予想が当たったということで嬉しいことではあるが、民主党は、今後はこの人々にしっかりと目を向け、救済していかなければならない。黒人やヒスパニックなどの白人以外の人々の底辺の層にも目を向けることが必要である。コロナ対策が一段落したのちは、富裕層への増税を行い、補助金や社会福祉を充実させ、貧富の差を縮めていくであろう。それが、トランプが作り出した米国の分断を埋め合わせることにつながっていくのだ。
 もちろん、経済政策も重要である。金融を緩和し、新しい先端産業の育成に力を入れ、中国に先行された分野でも追いつき追い越していかなければならない。それが、自由と民主主義のリーダー国の義務である。外交では、欧州や東アジアの民主主義の国々と連携し、習近平の中国の暴走を止めることが期待される。
 日本では、多くの人々が、トランプの方が中国を押さえ込むには適切であるといっているが、それは間違っている。トランプは、一人で物事を決め、その基準はディールであるので、中国にいくら強いことを言っても金銭的な譲歩を引き出したらすぐに握手をしてしまう。バイデンは、欧米やアジアの同盟国との連携を強化し、チームで中国を締め付けるであろうから、安易な妥協はしないと思われる。
 ここで、中国の問題にも触れておこう。胡錦濤とは違って、習近平は中国による世界覇権を夢見ている。近年は民間活力を軍事に取り入れることに注力し、先端産業の分野の技術を軍事に取り入れることに成功している。量子コンピューターを使った軍事兵器の開発も行なっている。
 注意すべきは、それらに、日本の学問研究、技術や素材の開発が利用されていることだ。つまり中国覇権に日本が一役買っているのだ。その意味で、昨今騒がれている日本学術会議の責任も重い。もっと自由な意見交換ができ、中国に利用されないような学者の組織に変えていく必要がある。政府もさっさと任命拒否の理由を明示し(できなければ任命を受け入れ)、問題点が浮かび上がった学術会議の組織改革に手をつけた方が良い。
 もう一つ、日本では中国といえばなんでも嫌う傾向にあるが、それは間違っている。中国共産党、漢民族、中国人、これらはそれぞれ異なっている。一緒にしてはいけない。問題なのは習近平の思想である。これを変えていかなければならない。かつての胡耀邦や趙紫陽のような民主主義に理解のある指導者が出てくることが望ましい。

 今、日本時間で5日の深夜である。FOXの開票速報によれば、バイデンは選挙人の264票分を獲得し、ネバダの6票を加えて270票の過半数に達する。うまく進めば306票を獲得するであろう。米国の民主主義の底力を見た思いである。トランプは投票の不正を言い立てて、法廷闘争に持ち込み、ホワイトハウスに居座ろうとしている。もともと選挙によってホワイトハウスに入ったのだから、選挙を否定することは自分の正当性を否定することとなる。まるで選挙によって首相に就任し、全権委任法により選挙を否定して独裁者となったヒトラーと同じである。これを許せば、米国は中国と同様の国となり、民主主義国のリーダーの地位を失う。そのようなことは起きるはずがないから、トランプ退場となるであろう。日本にもいるが、熱狂的なトランプ支持者たちはナチやカルトの信者と同じである。そろそろ目を覚ますべきだ。                                        (2020/11/05)


 
 

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