宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

皇位継承について

2020年3月7日   投稿者:宮司

 兵庫県荒井神社の廣瀬宮司様から、皇位継承に関するご意見をいただいた。すでに各所に発信しておられるようであるが、ご了解を得て、以下にご紹介をする。

令和の新時代を迎へて    荒井神社宮司 廣瀬明正

 本年五月一日、平成から令和へと御世が替はった。昭和から平成の時は昭和天皇の崩御で自粛ムードが広がり、各種のイベントが中止になるなど、国中に重苦しい雰囲気が漂ってゐたことを思い出す。ところが、今回は上皇陛下のご譲位によるもので、国内は明るく祝賀の中で新しい時代を迎へることができたのである。
 平成二十八年八月八日、上皇陛下は”象徴としてのお務めについて”ビデオメッセージでお気持ちを述べられた。このお言葉に国民の多くが共感したことはいふまでもない。それは、永年国民に寄り添ひ歩んでこられた両陛下に対して、これからはごゆっくりとお過ごしくださいといふ国民の感謝の表れでもあった。
 しかし、早速保守派の論客といはれる人々から反対の声が上がった。たとへば、憲法学者の八木秀次氏によれば、天皇は「ご存在の尊さ」が重要であって、譲位へのお気持ちを示唆されたことにより、つひに「パンドラの箱」が開けられてしまったといふのである。(別冊宝島二五七一号『天皇と皇室典範』所収平成二十八年十一月)
 たしかに、八木氏の指摘された通り、天皇のご生前での譲位には歴史上、さまざまな問題があり、旧皇室典範には譲位の制度を排除した事情があったといへる。ただ、歴史の教訓を生かすことは大切だが、時の流れに伴なふ社会体制の変遷などに対応せず、旧態依然のままであってはならない。
 現皇室典範にも譲位の規定はない。そこで、政府は「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」を開催(第一回平成二十八年十月十七日〜第十四回平成二十九年四月二十一日)し、専門家(二十名)の意見をヒアリングしたのである。当時の議事概要、議事録(首相官邸ホームページの政策会議に掲載)を見ると、終身在位すべし、世俗のことを天皇の役割と考えるのは如何なものか、国民の目に触れるような活動は必要ない、祭り主として存在することに最大の意義があるなど、上皇陛下のこれまでのご活動を批判して、譲位に反対する意見が多く述べられた。
 だが、最終的には御一代に限る「天皇の公務の負担軽減に関する皇室典範特例法」が平成二十九年六月に成立、交付され、この度の御代替りが実現したのである。令和の時代を迎へ、譲位に反対された有識者の皆さんに改めてお聞きしたい。「今でも上皇陛下が譲位されたことに反対ですか」と。
 そして、今後注目すべきは「特例法」の附帯決議に基づき、「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」や「女性宮家の創設等」について、政府が検討をはじめることである。皇位の継承は皇室にとって重大なことだが、それを天皇陛下はお決めになることができず、皇室典範に拠らねばならない。
 政府はこの問題について、従来通り有識者会議を開くであろうが、皇室典範に「皇位は皇統に属する男系の男子が、これを継承する。」とあることに基づき、有識者から「女性天皇」「女(母)系天皇」には反対という意見が出ることは想像に難くない。もし、ご譲位の時と同じく想定外のことが行はれる場合は、典範の改正か特例法の制定が必要になる。
 いづれにしても、皇族数が減少してゐる今日、皇室の次世代の男子は悠仁親王お一人だけになる。男系男子の歴史・伝統を守らうとする意見を否定はしないが、側室制度もなくなり、一夫一婦制となった現代では、皇室のみならず一般家庭でも、男(父)系継承の維持は困難になってゐる。それゆゑ、皇室存続のためには、男女にかかはりなく皇位継承の資格を認めるように典範を改正しなければならないといふ意見が出てくるのは当然である。さうすることにより、天皇のお子様である愛子内親王は皇太子となられ、将来女性天皇となられる道も開かれる。
 最後に、皇室の行く末さへも国民(国会議員)に委ねざるを得ない制度の下にあって、多くの論者によって男系か女系かの論争が展開されてきた。中には女系を阻止するため、”愛子さまが天皇になられる場合は独身であるべし”とか、”旧宮家の子孫、それもスキャンダルの恐れがない幼児を現宮家の養子に迎へたらよい”などなど、好き勝手な議論が横行してゐる。いかに言論に自由な世の中とはいへ、このやうな言説は慎むべきであらう。「男系護典派」の人々も「九条護憲派」のやうに頑にならず、国のため、皇室のため、皇位継承問題に柔軟な姿勢を示してもらひたい。そして、天皇陛下・上皇陛下の御心に叶ふ法整備が進むことを期待して已まない。

 これは、傾聴に値するご意見であり、愛子内親王の天皇継承を支持する世論の後ろ盾ともなる時勢に即応した論考である。

 私は、これまで、皇位継承については、何のコメントも発信していない。それは、自分にとってあれこれ論じる筋合いのものではないという考えがあったからである。
 なぜか?自分は、昭和、平成、令和と生きてきて、直接、陛下にお会いした経験はない。唯一、上皇陛下が皇太子の砌、東宮御所において集団の一員としてご挨拶を賜った経験があるだけである。しかし、それぞれの時代にそれぞれの天皇陛下がどのようなお気持ちで国民に向かわれたか、いつも考えてきた。
 特に、ご心中を思えば、さぞかしお悩みになられたであろうと思われるのは昭和天皇である。お若い頃はイギリスに留学され、ヨーロッパ流の立憲君主制を学ばれ、それを実践しようとされたと思われる。したがって、平和を愛するご信念をお持ちでありながら、輔弼する大臣たちが世論に押され開戦を決意するとそれに従われ、平和への希求を和歌に託された。当時の大日本帝国は、立憲君主制ではなく、天皇大権を憲法に規定していたために、それは天皇の名を借りた一部権力者による全体主義の政治を帰結し、日本は未曾有の敗戦という惨事と出会うこととなった。しかも戦争を決定した人々は、最後に天皇陛下に下駄を預けて戦争責任を押し付けようとしたのである。細かな経緯は色々あったであろうが、国民の代表が戦争を始めたのであれば、自分たちがその結末について責任を負うのが当然である。A級戦犯とは、戦争責任を最終的に引き受けた人々であり、これを顕彰することは、再び昭和天皇に戦争責任を押し付けることになるということを現今の人々は考えもしない。もしくは、先の大戦の責任を認めず戦後の米国主導の世界秩序に異を唱え、再び欧米と対立することになることなど考えもしない。昭和天皇は、その後、新生日本と日本人にどのように向き合うのかを本当に真剣にお考えになったことと思われる。その結果、国民の象徴として、常に国民の心に寄り添い、国民の悲しみをご自分の悲しみとし、国民の喜びをご自分の喜びとする戦後のご皇室のあり方を作られたのである。
 平成天皇であられた現在の上皇陛下は、さらにその方向を徹底され、日本国憲法に則った天皇のあり方を磨きこまれたと思われる。現在の天皇陛下は、その戦後のご皇室の伝統を受け継ぎ、一層前向きに国民とともに平和国家の道を歩もうとされている。昨今の国民の日本国憲法批判や戦後ご皇室のあり方の批判を苦々しくお思いになっておられるであろうことは想像に難くない。
 私は、現在の日本国の中で、もっとも民主主義ならびに世界の連帯と平和の構築に熱心であるのはご皇室であると考えている。私たちはご皇室に学ぶことは沢山あるが、これをあれこれ批判するような資格も器量も持ち合わせてはいない。
 従って、私は、皇位継承についてはご皇室にお任せすべきであり、国民が賢しらに意見を述べることには反対である。ご皇室を信頼し、もう少し慎み深く過ごすことはできないのであろうか?あるいは、ご皇室のお気持ちを第一に考え、その方向に世論を形成していく工夫はできないものであろうか?

                                (2020年3月6日)

日本