宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

国を守るためになすべきこと

2016年7月19日   投稿者:宮司

 最近、大学に通っている娘と話す機会があった。娘の口から、北朝鮮や中国が日本に攻めてきたらどうしようということが、大学生の間で話題になっているということを聞いて、驚いた。現在の政権の裏にいる人たちの宣伝がここまで来たか、という思いがした。そこで、今回は、わかりやすく、国の安全保障をいかに維持するかということについて述べてみる。

国を守るためになすべきこと

 自分の国を、他の国の侵略から守るということについて、考えてみます。
難しく言えば、国の安全保障をどのように作るか、ということです。

 現在の日本では、最近は、お隣の北朝鮮とか、中国の軍事行動の矛先が日本に向くのではないか、というような話、隣国の脅威ということがよく語られ、それに対抗するにはどうしたら良いか、ということも語られています。
しかし、率直に言って、北朝鮮や中国の人々が何を考え、どうしようとしているのか、軍事力はどの程度なのかといったことは、正確には誰もわかっていません。

 ここでは、もっと大きな視野で、国の安全保障ということを、多角的に考えてみます。まず、国と国が、平和に共存することができるのか、ということです。もちろん条件によって、それは可能です。現在の日本と米国の関係は、とても戦争をする可能性があるようには見えません。むしろ互いに手を組んで共通の敵に当たろうとしているように見えます。これは、日米安全保障条約という名前の集団安全保障条約を国と国との約束として結んでいるからです。それなら、北朝鮮と中国の双方とも日本が集団安全保障条約を結べば、問題はなさそうですが、それほど簡単ではありません。例えば、北朝鮮は、米国と話し合いのテーブルにつきたいと願っていて、そのためのデモンストレーションのようにミサイル実験や核爆弾の開発を行っています。米国は相手にしません。この場合、日本が話し合いのテーブルを作ることはできません。なぜなら、日本の軍事力は米国の指導のもとに組織化されていますし、相互に集団安全保障条約を結んでいますから、米国の意向を無視して、他の国と軍事的な問題で話し合いをすることはできないからです。

 実は、もっと大きな話し合いのテーブルが、世界には用意されています。それが国際連合です。第二次世界大戦の終結の後、これ以上人類が戦争を起こさないようにという願いを込めて、第二次世界大戦の戦勝国を中心に結成された組織です。

 この話し合いのテーブルは、それなりに機能しています。ですから、国連条約とか、国連決議に対して違反をする国には、国連が実力行使、つまり軍事行動を取る場合があります。しかし、国連は常設の国連軍を持っていません。そこで、このような場合は、賛同する国々が軍事力を分担し、戦闘行為を行い、平和の維持を図ることになっています。このような軍事行動には国連の安全保障理事会の承認が必要です。この理事会は、第二次世界大戦の勝者である、米国、英国、フランス国、ロシア国、中国の5つの常任理事国が中心となり、その時々で選出される10の非常任理事国を合わせた会議で話し合われます。しかし、5つの常任理事国の足並みが揃うのはなかなか難しいので、素早い対応ができないのが現状です。

 本当は、国連が常設の軍隊を持っていて、いつでも内乱や侵略行為があった時には、すぐに国連軍が駆けつけて事態を処理することが望ましいのですが、そのようにはなっていません。軍隊を持つのは、主権国家と呼ばれる現代の国家の特権と思われているからです。ですから、例えば、EUという国家共同体がありますが、軍隊はそれぞれ別で、共通ではありません。主権国家が軍隊を独占しているので、主権国家単位で防衛が議論され、世界全体の秩序ということが議論されにくいのです。

 ここに、最大の問題があります。

 少し、古い歴史を考えてみましょう。

 私が、今、いるのは清須市です。北へ行くと岐阜県に入り、岐阜市があります。実は、450年ほど前は、清須市と岐阜市は別々の国でした。尾張国と美濃国といって、互いに侵略しあって、戦争が絶えなかったのです。しかし、今では、清須市に住んでいる人々と、岐阜市に住んでいる人々の間に戦争が起きるはずはないと、誰もが信じています。いったい何故でしょう?

 それは、互いに軍隊を持っていないからです。そして、誰かが軍隊を組織しようと考えたら、すぐに警察や、場合によっては自衛隊がやってきて、武器を取り上げてしまうからです。

 これを、世界という土俵で、考えてみましょう。すべての国が軍隊を持っていないならば、戦争は起きません。しかし、どこかの国が武器を持って戦闘行為を行おうとしたら、必ずそれを抑えて、武器を取り上げてしまう強い軍隊を、世界が用意していなければなりません。それが、常設の国連軍です。この国連軍はどのように作るのでしょうか?簡単です。世界中の、国連に加盟している国々が、持っている軍隊の一部を少しずつ提供すれば良いのです。そして、国連軍に自国の軍隊を提供することによって、自国の安全保障を作れば良いのです。国連軍の指揮の権限をどうするかというようなことは、話し合いと軍隊の実力で自然に決まってきます。

 なかなか世界はこのようには進みませんが、もともと国連を作ったのは、戦国時代の日本が一つにまとまったように、世界が話し合いによって一つにまとまっていくことを、世界の人々が望んだはずですから、その夢を見失ってはいけません。

 世界が一つにまとまるということは、一つの価値観や、一つの政治システムでまとまるということではありません。世界には、様々な人々、様々な歴史、様々な文化が存在します。価値観もそれぞれ多様です。お互いに違いを認め合って共存していくことが、戦争をなくすための最善の道です。

 これに対し、人類は昔から、一つの価値観で世界をまとめ上げて平和な世界を作ろうと考え、度々、戦争を行ってきました。すべて失敗しました。もちろん、戦争は、多くの場合、利益の追求を目的としてきました。しかし、人類は、一方では、自分が正当であり、自分の価値観で世界が統一されるべきだという信念を持って戦争をする場合が多いのです。そして多くの人々が戦争の犠牲になりました。例えば、西欧の十字軍がそうです。例えば、世界を共産主義に染め上げようとした人々もそうです。例えば、八紘一宇、つまり世界が日本の天皇陛下をお父さんと仰いで、家族のようにまとまるべきだと言って、大東亜戦争を始めた人々もそうです。今のイスラム原理主義の人々もそうです。もう、そんなことはやめるべきです。どんなに良く見える理想を掲げても、すべての人々が納得できるような価値観はありません。互いに譲り合い、認め合って共存する他ないのです。ここに、個人の個性を大切にする民主主義と市場経済の根本があります。この二つのシステムは、今のところ、人類が到達した、最も優れた社会と経済のシステムです。もちろん欠点はあります。例えば、日米や英国系の先進国では、現在、貧富の差が広がりすぎています。そういったことを少しずつ修正しながら、ベストのシステムを作っていくのです。

 さて、今までは、軍隊のことだけに絞ってみてきましたが、平和な関係を維持するには、もっと他の力が必要です。

 もう一度、清須市と岐阜市の人々の関係に注目してみましょう。清須市の人々は、自由に岐阜市に行くことができます。住み替えることも可能です。お互いに様々なものが交流しています。岐阜市の野菜を清須市の人が買ったり、清須市の人が岐阜市の温泉へ遊びに行ったり、もちろんその逆も可能です。

 そのように、人や物や技術や情報の交流が豊かに行われていれば、普通の人々が、相互不信になったり、戦争して相手を殺そうなどとは思いません。恒常的で大規模な民間交流が、大切な戦争抑止の効果をもたらすのです。大東亜戦争の時の日米のそうした交流は極めて少なかったために、国内では。鬼畜米英などと言っていました。やってきた米軍は決して鬼ではなかったことに人々は驚いたことと思います。今は、日米の関係は、極めて複雑に、相互に絡み合っています。つまり、互いに相手を無視しては、存続することもできないのです。さらにインターネットの発達は、民間レベルで様々な重要な情報が国境を越えて行き交うことを可能にしています。これも大きな戦争の抑止力になります。

 では、北朝鮮と日本ではどうでしょう。両国は、きちんと外交関係もできていませんから、人々の交流はわずかなものです。北朝鮮は、米国との関係の正常化を一番に考えています。日本を脅せば、米国は黙っていませんから、日本への脅威はありません。北朝鮮の支配者層は、常に、世界の先進国にいつ潰されるかという脅威に怯えています。日本の一部の人たちは、いざとなったら米国は日本を助けに来ないから、自前の軍事力を十分に強くすることが必要であるといいます。これは恐怖に駆られた妄想です。あとで述べますが、他国や世界の人々を信用しなかったら、自滅の道しかありません。日本は、孤立して生きていくことはできないのです。

 しかし、中国とはどうでしょう?今、日本に観光にやってくる外国人で一番多いのは中国の人々です。日本人の生活から中国製の物品を外したら、たちまちハイコストの生活となり、私たちの生活は大変なことになるでしょう。私は、毎週1回、大阪で、中国人の留学生に人間の社会について教えています。彼らは、中国の大学で日本語を学び、日中両国の友好関係の中で、人生を生きていこうとしています。私は、日本の民主主義と市場経済の社会の内容を示し、近代化を達成しようとしている中国は、個人化と民主化を求めるような社会になっていくだろうと説明しています。

 実際に、中国の人々と付き合ってみると、彼らが日本人に敵対意識を持っているなどとは到底思えません。むしろ、一部の偏狭な考えの人々の宣伝によって、日本人の中に中国の人々に対する悪感情が芽生えているように思われます。

 中国経済は、ここ数年、目覚ましい発展を遂げてきました。市場経済のおかげです。しかし、これは、同時に、人々の意識の中に個人主義と民主主義への欲求を生みだし、現実の中国政府は、非民主的な政権ですので、国の運営に困っています。そこで、国の内外に敵を作って、人々の批判の目をかわそうとしています。国の外の敵が日本というわけです。しかし、たくましい中国の人々は、政府の意向など御構い無しに、日本へやってきて、日本人との交流を行っています。軍隊の一部は、政府の意向もあって、国境線の膨張を図ろうとしていますが、過去の歴史はどうあれ、現在の世界の国境線は、第二次世界大戦の終結の時点を基本として、これを、武力で変更しようとすることは、国連が許しません。

 また、中国は、経済の果実を、米国のドル紙幣や、米国債で持っています。日本と同様に、米国やEUに多くの生産品を輸出しています。中国へは、外国資本が莫大な投資を行っていて、そのおかげで、中国のたくさんの人々は働く場所を得ています。軍隊の規模を比べるまでもなく、中国は米国など先進国とは戦争ができません。

 日本も、ドル資産を大量に抱えています。また、日本の経済界は、中国に莫大な投資をしています。ですから、日本は、米国とも中国とも戦争ができません。世界は、第二次世界大戦の頃とは打って変わって、国家間の経済的な結びつきが強くなり、その結果、政治的にも対立ができにくくなっています。先日日本でサミットが行われました。定期的に先進国の首脳が集まって、世界の問題の解決をはからなければならないほど、世界は緊密に結び付き始めています。

 このように先進国相互が、経済的な強い相互依存関係を作ることは、安全保障の大切な要素です。仮に、一国が、単独で戦争をしようとすれば、貿易がストップしますから、すべてが自給自足となります、日本は、とてもそんな体制を作ることはできません。大東亜戦争でも、日本は、石油の輸入をストップされて、在庫のあるうちに、軍艦や飛行機を動かして、戦争をしようとしたのです。つまり、どこの国でも、自給自足ではなく、他の諸国と経済的に相互依存の結び付きを深めることによって、自国の安全保障の強い力が出来上がるのです。

 このような考え方に対し、常に軍事力のバランスだけで、自国の安全を図ろうとする考え方は、結局、どの国も信用できないために、経済を自給自足でまかない、核戦力を含む世界最大規模の軍事力を無理やり持とうとします。常に相手の戦力を分析し、それ以上の戦力を保持しようとしますから、どんどんと国家間の緊張が増していき、結局、戦争を引き起こしてしまいます。

 1980年代の末、米国とソ連という二つの超大国が、核戦力を互いに増強しあって、もうすぐ大規模な核戦争が起きるのではないか、と世界中が心配していました。この時、ソ連の指導者となったゴルバチョフは、米国大統領のレーガンと会談し、核戦争をしないために、核戦力を少しずつ減らしていくことを約束しました。そして、ソ連が民主化し、ロシアとなったことは、ご存知の通りです。すぐれた指導者は、世界的な軍事力でも削減する勇気を持っています。

 日本と中国との関係は、現在、決して順風満帆なものではありませんが、戦争につながっていくようなものとは考えられません。むしろ、中国の脅威を煽って、中国に対する警戒心を日本人の心の中に作り出し、平和な共存の方向を壊し、日本を強い軍事国家に変えようとする一部の人々の意思が、明確に、今の日本に存在しています。

 世界中がこのような人々に踊らされて、第三次世界大戦のような悲劇が起きないようにするためにも、私たちは、常に世界の人々との交流を大切にして、個人レベルで相互の信頼関係をできるだけ多く作り上げていかなければならないのです。                                          (2016/07/19)

 

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