宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

戦争と平和 経済の果たすべき役割

2013年4月24日   投稿者:宮司

以下は、2007年に、中国、青島において、中国人を相手に行った講演の原稿です。

 戦争と平和—経済の果たすべき役割

近年の中国の経済の発展は、極めてめざましいといえます。特に、2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博にかけて、一層の発展が予想されます。それにともない、中国の人々の生活も急速に近代化されてきています。北京の人々の生活は、日本の大都市の人々の生活と変わるところはありません。

 このような、中国の発展を見て、日本の中の多くの人々の間に中国を嫌う意識、いわゆる「嫌中意識」が広がっています。そのような人々がひそひそと囁く中国の命運は、どのようなものでしょうか?彼らは、異口同音に、「万博が終わったら、凄まじい経済調整が起きて、経済が大混乱する。そして、地方と都市、都市民と農民の格差が広がり、不満が極点に達して、中国は二分、三分して、内戦の大混乱を起こすことになるだろう。いや、きっとなるに違いない。」といいます。そんなことになったら、隣国で、経済の結びつきが深い日本としても、大変困ることになるのですが、妙なことに、どこか期待を込めて中国の混乱を予想するのです。

 既におわかりのように、これは、中国に対する嫉妬とねたみが作り出す感情です。以前、韓国が経済的に大発展を遂げたとき、日本では、「日本が開発した技術が盗まれている。日本の技術の猿真似だからすぐにだめになる。」といったことが、囁かれていました。まわりが自分より良くなることを面白くない、と思う意識、昔、戦争の時代に、服属させたり蹂躙したりした人々が、自分たちよりよくなるわけが無い、と思う意識。実につまらない意識が、底流にあると考えられます。

 本日のお話のテーマは、この、「中国が、分裂するに違いない。」という思い込みから、引き出していきたいと思います。

 さて、日本人は、中国が分裂し、お互いに戦争をするようになるに違いない、と感じる人々がいます。しかし、日本の国において、例えば、隣同士である、愛知県と岐阜県が、将来、戦争をするようになる、などとは、決して思いません。何故か?ここに、戦争を抑止し、平和を実現する鍵が隠されています。

 実際、500年前には、愛知県は尾張の国、岐阜県は美濃の国といって、それぞれ織田信長と斉藤義龍という武将に支配されており、互いに相手を支配するために戦争が繰り返されていました。しかし今、この二つの国の間に、戦争が起こるとは、誰も信じません。何故か?

 一つは、武力の問題です。現在の愛知県と岐阜県は、行政体としては分かれていますが、それぞれを防衛するための武力を持っていません。これに対し、日本という国は、たとえ専守防衛といっても、陸海空軍の武力を持っています。

 つまり、武器がなければ、戦争は起こらないのです。

 次に、金、もの、人の交流があります。現在の愛知県と岐阜県の間は、それらの交流が頻繁に行われており、分ちがたく結びついています。昔、日本とアメリカが戦争をしました。しかし、その当時、両国が互いに多くの親族を持ち、投資と貿易で不可分の関係を作り、行き来が自由であったなら、戦争は起きなかったでしょう。日本と中国の関係も同様です。もし、あの時代に、日本人と中国人が結婚を通じて、数千万人単位で親族関係を結び、経済的にも分ちがたく結びついていたならば、悲劇は起きなかったに違いありません。もし、当時の日本人の多くが主張していたように、日本が「東アジア諸国を、白人の植民地から解放すること」を目的として戦争をしていたならば、何故、戦争が終わったあと、日本人は大挙して日本へ帰ったのでしょう。アジアの人々の味方であるならば、何故、今、韓国や中国の発展を苦々しく思う人々が多いのでしょう?

 さて、戦争は、特定の目的を持って行われることが普通です。単に、相手に勝る武力を持ったから、相手を支配するといった理由無き戦争は、普通では考えられません。古代は、王様の面子や感情でも戦争は起きたでしょう。しかし、時代が下るにつれて、国家はより多くの人々の意志によって動かされるようになり、多くの場合、経済的な利益を目的として戦争が行われるようになりました。日本は中国との間で戦争に勝利し、その結果として得た多額の金塊で、経済の近代化を成し遂げました。その後、ロシアとも戦争をしましたが、この戦争に勝ったあと、特別の利益をたいして獲得することができなかったので、国内で暴動が起きたことはよく知られています。アメリカは、イラクの石油の利権と、アメリカの経済を深くコントロールしているユダヤ人の国であるイスラエルの防衛と、アメリカ国内の軍需産業の求めに応じた兵器の消費と展示のために、イラク戦争を行いました。北朝鮮は、イラクと同様、ならず者国家とされ、アメリカに敵対していますが、特別の利権が無く、反対に、膨大な難民の出現が予想される北朝鮮との戦争には、全く乗り気ではありません。余談ですが、アメリカは、イラク戦争の結果、各国から大量の武器の発注を受けました。イラクの国内の安定には失敗しましたから、イラクの復興をアメリカの産業で行い、石油の利権を確保することには、今ひとつ成功していませんが、パレスチナの自爆テロを止めさせることには成功しています。資金源のフセインと実行役のアラファトがいなくなったからです。ロシアも最近、兵器産業の復活に努力しています。売れる商品だからです。

 かっての世界経済は、国家毎に独立して維持されており、その状態の中で、貿易を通じた交流が行われるようになりました。実は、ものや人やお金の交流は、古代から人類社会に存在したのですが、近代に入り、主権国家が確立し、人々が、主権国家の範囲の中でまとまって暮らすようになると、国家単位の競争や対立の意識が生まれたのです。今でも日本では、戦争が起きたときのために食料自給率を100パーセントに近づけなければならないという議論が生まれます。これを逆から見れば、食料自給率が低ければ、食料を依存している国とは戦争ができないことになります。つまり有効な安全保障なのですが、すべての国家が、自立して存在しなければならないと考える人々は、このことがわかりません。

 世界経済は、すべての地域の人々が豊かな生活を得ることができるために、分業と技術開発を進めてきました。資源や環境の問題が行く手を阻もうとしていますが、それらは、地球規模で人類が協力する以外に解決の道はありません。そして、経済の流通の規模を定める貨幣は、現在、価値の裏打ちとしての金から離れて、単に紙切れに印刷しただけの紙幣に変わっています。必要なのは、無限に増加する世界経済の規模を支える世界貨幣、現在は米ドルです。ユーロがもう一つの世界貨幣になろうとしています。その世界貨幣の信用を崩さないように、世界の国々の経済を動かす人々が協力して、信用を維持し続けることです。そこでは、昔のように、戦争でものや金を取り合うことは、もはや非合理的なことなのです。先進国間の戦争はあり得ないという理由が、ここにあります。同じように、日本や中国のように、一旦経済的な離陸を行い、経済発展のレールに乗った地域や国の中で、戦争が起きることは考えられません。日本では内戦は起きないが、中国では起きるかもしれないと考えるのは、馬鹿げたことです。

 日本が、オリンピックや万博を行った1960年代、外国資本の移動は、現在ほどスムースではありませんでした。ですから、新幹線や高速道路を作るために、日本は、世界銀行から借り入れをしたのです。しかし、社会の法律やインフラを整備すれば、国際資本がいくらでも移動してくるようになった現代では、中国は、借り入れなくとも、そのような設備を設けることができます。現在の中国の経済発展を支えている資本は、三分の二が外国資本のはずです。中国は、現在、外貨準備が世界一で、その余剰金で、アメリカのドルを買い支えています。国家の面子で対立することはあっても、根本的に、中国は米国と戦争することはできません。安全保障は、武力や食糧自給率で得られるものではなく、ひと、もの、金、すなわち経済が分ちがたく結びつくことにより、結果として、得られるものなのです。

 中国のこれからの課題は、軍隊が、自国の面子や兵器使用の誘惑に駆られて暴走しないように、きちんとコントロールすること。かっての大日本帝国はそれに失敗し、無謀な戦争に突入しました。そして、中国のもう一つの課題は、行政のスリム化と合理化のために、共産党と実務官僚の二重行政を簡略化し、政治を民主化することでしょう。

 日本のこれからの課題は、世界の安定無くして、日本の将来は無いことを深く認識し、環境やエネルギーという人類の課題解決のための技術を開発し、それを世界に開放し、軍縮や経済交流のリーダーとなり、国際平和に貢献していくことでしょう。

 皆さんが、今日、ここに集われ、中国と日本の経済交流のために話し合いをされることは、この両国の、そして世界の経済の結びつきを深め、平和を達成するための、確実な一歩となるでしょう。そのような、大義を自覚して、お話を成功させていただきたいと思います。

 (2007.09.03青島にて講演)

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