宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

グローバル化と安全保障

2024年4月11日   投稿者:宮司

 グローバル化によって、国家の性格が、唯一無二の権利を主張する主権国家から、国家連合体の一部である、地方政府的な地域国家の性格に変質し出していることは、先に述べた。

 そこでは、国家の安全保障の枠組みも変わらざるを得ない。主権国家の時代には、安全保障は第一に自国の完全武装によって保障されると考えられていた。完全武装とは、どの国から攻撃を受けても、それを跳ね返す実力を伴った軍備であり、その究極の姿が、冷戦時代の米ソの相互確証破壊戦略(Mutually Assured Destruction)と言われるものだ。

 これは、対立する2つの核大国の一方が、他方に対し先制核攻撃をした場合、被攻撃国の破壊を免れた残存核戦力(主に戦略ミサイル搭載原子力潜水艦や車載式移動ミサイル発射装置)によって確実に相手に報復できる能力を保証する態勢である。これにより、先制核攻撃を行った攻撃国も、相手の報復核攻撃によって耐え難い損害を受けることになるため、MADが成立した2つの核大国間では、先制核攻撃を理論上は抑止し得る。

 冷戦時代は、この安全保障の常識を維持するために、常に核ミサイルの開発が双方で進み、ついには、この地球を数十回破壊するほどの核戦力が整えられた。この核戦力を互いに削減するための交渉は1970年代から始まり、1987年にはゴルバチョフとレーガンにより中距離核戦力全廃条約が締結され、1991年にはゴルバチョフとブッシュの間で、戦略兵器削減条約(START1)が調印された。これにより、核ミサイルの削減が始まったのは喜ぶべきことであるが、これに続く第二次戦略兵器削減条約(START2)は、2011年に発効したが、ウクライナ戦争の影響で2023年履行が停止されてしまった。

 一方、核戦力は米英仏ソ中の5つの国連安全保障理事会常任理事国以外に、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮に拡散され、偶発核戦争の恐れが増大している。

 人類がつまらない相互の戦争によって滅亡しないためには、核兵器を含む軍備管理や軍縮が最も重要であるが、軍事は主権国家が最後まで専権事項としたいものであるので、容易ではない。

 そこで、浮上してくる考えは、国連常設軍の創設である。これまで、国連は内戦や国家間の紛争に対し、さまざまな決議を行なってきたが、軍事力を伴わないために画餅と化したことが数知れずあった。イラクのクエート侵略の折は、米軍を中心とする国連軍が臨時に創設され力を発揮したが、その後イラク戦争という泥沼に帰結することとなった。

 直近のロシアによるウクライナ侵略に対しては、ロシアが国連安全保障理事会常任理事国の一つであるが故に国連軍を作ることもできず、欧米は核戦争にビクビクしながらウクライナに肩入れし、現在の泥沼となっている。

 このような現況を考えると、各国が応分の負担として部隊を派遣し、常設国連軍を作り、その部隊派遣をもって安全保障とすることが、一つの有効なアイデアとなる。派遣部隊の規模や兵力、指揮権の問題など、難しい問題も多いが、このような安全保障の枠組みができたならば、それぞれの国の軍備は各国の専権事項として、なおかつ、国連加盟国すべての安全保障が成立する。常設であるので、国連の権威と信用度も増す。

 そして地域の安全保障の諸条約を適宜解消していけば良い。ロシアもNATOがなくなれば、侵略の口実がなくなる。ロシア語話者の保護を主張するならば、ウクライナ地域からロシアへの移住を進めれば良い。児童を連れて行って愛国教育という洗脳を施すよりはよほど健全である。

 ただし、軍事力により現状の国境を変更することを目論んでいる国家があれば、この話はまとまらない。グローバル化が進む今日、国境の変更による国家の拡大には何のメリットもないことを悟らせることが肝要である。事実、国境は次第に低くなって、人間、もの、技術、文化、資本、あらゆる分野での交流が激しくなっていくのが、グローバル化の実態である。そうであるから、世界から主権国家が消滅し、世界は地域国家の連合体に変わっていくのだ。(2024/04/11)

世界-日本