宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

グローバル化と主権国家

2024年4月5日   投稿者:宮司

 国家については、自著「近代化と人間社会」の中で、3点を指摘した。

1、人類は生産力の低かった時期、すなわち第二次産業革命(機械革命)以前には、食料を含む生活資源の獲得のために集団を作って争い、その争いに勝つために集団の究極として国家を作った。
2、国家は、基本的に支配者の恣意によって動かされ、定住する国民の意思とは無関係に栄枯盛衰を重ねた。
3、啓蒙思想が生まれ、社会契約の概念が生まれ、国家に対し国民全員が責任を持つという意味の国民国家が生まれ、それが唯一無二の国民の拠り所としての主権国家を産んだ。

 啓蒙思想の生みの親の一人であるトーマス・ホッブスは、このCommonwelthである国家をリヴァイアサン(怪物)とよんだ。それは、主権国家の運命を予兆しているかのようであった。

 ホッブスが危惧した通り、人類にとって自らが属する主権国家は、命を賭して守らねばならない存在となり、主権国家の名目のもとにはあらゆる非道が許されることとなった。ナチスのホロコーストも、米国の原爆投下も中国やソ連の大虐殺も全て主権国家の意志のもとに実行された。

 20世紀は国家の時代と言われ、第一次、第二次の両大戦を含む多くの戦いが主権国家の存続を賭けて戦われた。あらゆる国民は、自らの拠り所としての主権国家を無上のものと考え、躊躇なく国家のために命を捧げた。

 機械革命ののち、世界の生産力は急激に増大し、それに連れて世界人口も急激に増加した。先進各国は帝国主義に基づく植民地争奪戦争を戦い、その後、東西両陣営に分かれて冷戦を戦った。人口の激増の結果人口問題が浮上し、20世紀末には貧困層が最大となり、貧富の差も拡大した。

 しかし、第三次産業革命であるデジタル革命とそれに伴うグローバル化に至って、貧富の差や貧困問題の解決が次第に視野に入ってきたことはすでに過去のブログで述べた。富の争奪戦としての戦争はもう不必要になったのである。

 第一次世界大戦後には、国際連盟が生まれ、第二次世界大戦後、国際連合が成立するに及んで、人類の中に、国家を超えた共同性の必要性が認識されるようになった。

 それは、グローバル化の今日、世界レベルの生産力の発展、世界レベルの環境問題、正と負、両極において、地球レベルで人類が結びつくことの必要性を強く示している。

 現在なお、先進国地域で戦争が行われている、あるいは今後行われる可能性があるのは、主権国家という亡霊に取り憑かれている政治指導者の妄念や、発達した兵器や武器の使用の誘惑に負ける軍人の妄動によるものであろう。

 人類は、今こそ、主権国家を超克して、地球共同体の実現を目指さなければならない。しかし、すぐに国家を廃して世界連邦のような形を作り、生存の拠り所とすることは、今までの常識を全面的に覆すことであるので、簡単ではない。

 そこで考えられるのは、緩やかな国家連合を作り、国際条約を積み重ね、共通の基準となる制度や法律を作り、共通の目的に向かって協力することである。まさしく、国際連合はそのように動いている。もう一つは、地域ごとに国家が連合して組織体を作っていくことであり、EUがその典型である。日本も、米国や韓国と連合して地域共同体を構想してはどうか?これらを考え合わせると、現実的には、すでに主権国家はその主権の一部を手離し出している。

 実は、21世紀こそ、ホッブスが危惧した「怪物」から人類が解放され、個人を基礎として全ての人類が共感し、共存する世界が開かれる時代であると思われる。(2024/04/05)

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