宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

グローバル化と世界経済

2024年4月1日   投稿者:宮司

 グローバル化と世界経済の関係について述べる。

 上図は、世界銀行による、1960年から2017年までの世界のGDPの総計の推移である。2017年では、世界経済の規模は85.9兆ドルである。

 2014年あたりの窪みは、中国経済の減速によるものである。2008年の窪みは、米国の住宅ローンのバブル崩壊によるものである。

 一時的な窪みはあるけれども、1960年から一貫して右肩上がりの成長を続けているが、特に、21世紀に入ってから成長の角度が急激に高くなっている。これはグローバル化の影響と考えて良い。2017年以降も、減速はしたが成長を持続している。

 ここからわかることは、グローバル化による、人、もの、技術、資本の自由な流通は、経済を発展させるということだ。間違っても阻害することはない。

 21世紀以降の世界経済の成長を概観する。G7(米国、日本、ドイツ、英国、フランス、イタリア、カナダ)とE7(中国、インド、ブラジル、メキシコ、ロシア、インドネシア、トルコ)のGDPが世界全体に占める割合の変化をみると、E7の国々は、1990年では 9.6%と全体の1割に満たなかったものの、2018年には26.6%と世界の約3割近くを占めている。なお、E7の内訳は中国が約6割を占めており、中国が特に急速な成長を遂げていることがみえる。他方、E7の成長に圧迫される形で、G7はそのシェアが縮小傾向にあり、2018年の割合は45.3%と1990年時点から20.9%減少している。(日本・2020年版経産省通商白書による)

 すなわち、先進国が経済成長を鈍化させ、経済成長を起動させた発展途上国が追いつくのを待っている状態である。この先も、次々と発展途上国が経済成長を起動させれば、最終的には、世界のすべての地域が先進国並みの社会を実現することになるはずである。これこそが、グローバル化の本質である。

 ちなみに、なぜ先進国で経済成長が鈍化するかというと、それは人口問題のところで説明したように、少子高齢化社会の到来による労働者不足が一番大きな原因である。特に若年労働者層の減少は、耐久財を含む生活消費財の需要不足となり、国内消費の著しい減少をもたらすので、大きな経済停滞を生じさせる。なお、先進国でこの高齢化による労働者不足になっていない例外的な国が米国である。その理由は不断に流入する移民によって労働者が常に補填されているからだ。移民が職を奪うという点では、トランプは正しいが、移民を制限すれば、それは米国の高齢社会化をもたらすので、経済活力を失うことにつながっていく。

 この傾向は、2060年までの人口動態予測を見ると中国やインドでも現れてくる。2060年頃に労働者が溢れているのは、まさにアフリカ大陸である。

 もちろん、デジタル技術のように全く新しい技術分野の開発と商品化は経済成長をもたらすが、それは、基本の傾向を逆転させることはできない。したがって、現在世界経済の牽引役となっている中国経済も今以上の成長は難しい。インドも今世紀半ばには成長が頭打ちになると予想される。

 この通商白書は、2040年の国別GDP(単位:兆ドル)は、1 中国 47.4 2 インド 30.0 3 アメリカ 28.3 4 インドネシア 7.7 5 日本 6.1 6 ブラジル 5.9 7 ロシア 5.9 8 ドイツ 5.3 9 メキシコ 5.1 10 イギリス4.4 と予測しているが、おそらく、先述の理由によりこのようにはならない。特に中国は、元来、グローバル化による国際資本の移動と自由貿易体制により、世界の工場として劇的な経済成長を遂げたのであるが、昨今は戦狼外交とも称される自国本位の外交を展開し自由貿易体制を自ら覆し、更に国内経済の面でも不動産バブルが崩壊しその処理に手を拱いている状態であるので、大幅な経済成長の鈍化は避けられない。おそらくGDP値では、2040年にインドに抜かれているのではないか?

 ところで、この白書の見通しでは、2040年の世界のGDPの総計は、146.1兆ドルであり、2017年と比較すると170%となる。誠に急激な伸びである。それこそがグローバル化の結果である。

 グローバル化と世界経済の関係については、多くの学者たちが超国籍の資本が世界経済を寡占化し、富を一手に集め、貧富の差は拡大するという主張をしている。果たして本当であろうか?

 少なくとも、本稿で見てきたように、世界経済のグロスは上昇の一途を辿り、富の総量は増加する。果たして分配はどうなるのかということが問題となる。

 富の総量が増加するときに、貧困の問題はどうなるのかということが考察されなければならないが、この点については、後に考察することにする。ここでは、富の偏在、特に富裕層の問題について考えてみる。

 GDPはGDE(国民総支出)と同額であるので、誰が消費するのかが問題となる。ここで、富裕層と中間層のいずれが上位の消費者であるかが問題であるが、統計によれば、2000年あたりから富裕層の所得割合が減りだし、中間層の所得割合が増えだしている(下図を参照)。この傾向が続いていけば、中間層の所得割合が増え、いずれは富裕層の所得割合と並び、さらに上回るであろう事が推測できる。最も貧富の差が激しかったのは、まさに21世紀への変わり目のあたりである。

 これは、グローバル化によって富が一部の人々に集中して貧富の差が著しくなると主張する人々の意見を否定し、グローバル化によって中間層が増大しその所得割合が増え、富の分配がより多くの人々に享受されるようになったことを示している。

 また、超富裕層と呼ばれる人々の内実を国別に見ると、世界のGDPが高くなるにつれて超富裕層の人々が多くの国々に分かれ、さらに短期間に次々と交代していることがわかる。例えば、10億米ドル以上の資産を有する人々は、2004年には573人であったが、2024年には2170人に増加し、いくつかの発展途上国にも生まれた。したがって、超富裕層は固定されていない。新しいお金持ちが次々と生まれ、そして交代していくのが、グローバル化の時代なのだ。

 これらの実態に加えて、政策的な富の再配分が考慮されれば、貧富の差は更に解消されることになる。人間は個々に能力差があるので、自由に経済行為を営めば、貧富の差は必然的に出てくる。これを政策的に無理に均一化しようとしてはいけないことは、共産主義の失敗例が示している。大切なのは、富を増大させ、安定した生活をする事ができる中間層を確実に増やしていく事だ。(2024/04/01)

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