宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

グローバル化と人口問題

2024年3月27日   投稿者:宮司

 人口問題を俎上にのせた嚆矢は、1798年に発表されたマルサスの人口論である。

 マルサスは、人類の生殖欲求と生存資源としての食糧生産力の関係を論じた。彼によれば、社会が安定し、食料をはじめとする生活資源が十分であるならば、人間の生殖欲求は無制限となり、人口は等比級数的に増加する。そして、現代でいうGDPに当たる食料その他の生活資源の生産力は等差級数的にしか増大しない。従って、いかに生産力を上げても、それ以上に人口が増加するので、生殖を制限しない限り、人類は、慢性的な貧困に陥る、と説いたのである。

 今から見れば噴飯物の議論であるが、当時のイギリスは産業革命が始まったところであり、貧困をなくすためにいかにして生産力を上げていくかが真剣に模索されていた時期であるので、このような冷水を浴びせるような議論も注目を浴びたのである。 さて、もちろん、人間は、個体の維持のために食料が必要であり、安定した生活のためには、その他の生活資源が豊富であることが必要である。人類が、食料の供給に一定の安定を見たのは、第一次産業革命ともいうべき、農耕と牧畜の始まりからである。それは1万年ほど前と考えられているが、それ以来、地球上の人口は、農地や牧草地の拡大と様々な技術改良による生産力の増加とともに徐々に増えていき、第二次産業革命が始まる18世紀の末には10億人前後となっていたと推計されている。

 第二次産業革命、すなわち機械革命は、軽工業の発展の次に重工業が発展するという二層構造であり、それによって生活の近代化が始まり、人類は、食料を含むあらゆる生活資源を等比級数的に確保することに成功した。そして科学の発達に伴う医療技術の発達は、多産少死社会を実現し、地球上の人口も、等比級数的に増加した。その結果、20世紀には人口爆発が起こり、これが将来の人類の最大の課題と見做されるようになった。

 つまり、生産力の爆発的な上昇により、マルサスの言う生殖欲求が無制限に解放されたので、人類は増えすぎて自滅すると考えられた。そこで、中国をはじめ各国で産児制限が試みられた。中には戦争や疫病で地球人口を削減するという暴論まで飛び出した。また、地球以外に人類の生息地を求める宇宙植民を夢想する人々も現れた。

 20世紀は国家と戦争の時代とも言われ、このような地域対立の時代が続くように思われていたが、1991年のソビエト連邦の崩壊を契機に冷戦が終了し、人類は新しいステージに入った。それが、第三次産業革命と言うべき、情報(Information Technology)革命であり、インターネット社会の到来である。あるいはこれをデジタル革命と呼んでも良い。

 この新技術がもたらしたものは、全人類のあらゆる面での緊密な結びつきであり、それは生活スタイルの均一化をもたらし、民族や文化といった違いを無意味なものとした。これは、グローバル化と呼ばれる。

 このグローバル化の時代、21世紀になって、地球上の人口の推移に変化が現れた。それは先進国における人口減少である。近代化の究極として少子高齢化社会となった先進国は経済成長がストップし、人口の減少が始まった。マルサスは、人間の生殖欲求は無制限であり、人類は無限に増殖するといったが、それは間違っていた。つまり、人間は、生活が安定すれば、子供をどんどん産むわけではない。人間は、近代化により生活資源が満たされ、究極の安定を得たあとは、多彩な趣味や目的を持って生活するようになり、生殖に固執することは無くなった。また、近代化による個人化は一人暮らしの人々を多出し、多様性の尊重は同性婚のカップルを産み、人々は、類としての増殖欲求より、個人の人生の充実を楽しむように変化した。これは、生命体として人類を見るならば、根本的な変化である。人類の未来は、この延長線上にあると思われる。

 一方、未だ十分に先進国的な生活水準に達していない地域では、人々は今までのように多産少死の社会を作っている。グローバル化によって国境が低くなってきたので、世界中で、人々は国家を越えて移動し出し、発展途上国から先進国へ移住し、そこで働こうとする人々はますます増加している。そういった人々によって、先進国の経済が下支えされ、発展している。その典型が米国である。そして、そういった人々は先進国で生活することにより、個人化し、多産を停止することとなる。これは、将来的には、地球人口の減少をもたらす。

 このように考えてくると、近代化の究極として、生命体としての人類が変化し、グローバル化はその変化を地球上の全ての人類に広めることに寄与すると考えることができる。つまり、20世紀の人類が苦慮した人口問題が解決する。

 この状況を無視し、国ごとの都合で思考し、先進国では多産を奨励し、発展途上国では産児制限を主張する人々は、人類全体の運命を考えることができない人々である。人々の国を越えた移動を、文化摩擦などを根拠に反対する人々も古い。 

 例えば、日本でも、適切な法制度と管理システムを作って、勤労世代の移民を受け入れ、労働者不足を補い、世代別人口の歪みを是正し、少子高齢化社会に風穴をあけるべきだ。そうすれば、1960年代のような国内消費と貿易輸出が同時に拡大する経済成長が起動するであろう。そして、移民の人々は日本に定着し、少子社会の一員となっていくであろう。(2024/03/27)

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