宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

靖国神社A級戦犯(昭和殉難者)霊の分祀と遷座について

2023年9月16日   投稿者:宮司

 1978年(昭和53年)、靖国神社が死刑及び獄中死(平沼騏一郎は、病気仮釈放後の死去)の14名を「昭和時代の殉難者」として合祀した。この合祀以来、御皇室の靖国参拝は絶えた。それを復活させようとして、これらの霊魂のみを靖国神社から別の場所に移そうとして、様々な提言がなされた。

 しかし、一般に、「分祀」と称されるこういった主張は、意味のないものとして取り上げられることはなかった。それは、「分祀」とは、神道の教義でいえば、本体と分けて別にお祀りするということであり、本体は変わらずに存在するからである。つまり、霊魂(神)は自在に複数に分けることができるので、「靖国神社を分祀する」ということは、「靖国神社」をそのままとして、別に「靖国神社」をもう一つ作ることに他ならない。神々、またはその一部を祀る場所を移すということは、別の儀式となる。


 神道の教義上、神、もしくは霊魂を別の場所に移動して祀るということは、「分祀」ではなく、「遷座」という儀式となる。

 例えば、ある神社の本殿を取り壊し、新しく本殿を作る場合は、「仮殿遷座祭」を行なって、仮宮に神様をお移しし、工事が完成してから、新しい神殿をお祓い(清祓)して、「本殿遷座祭」を行なって、仮宮から新築した本殿にお帰りいただくのである。最も有名なのは、伊勢神宮(神宮)のご遷宮である。これは既存の本宮の横に全く同じ形の新宮を造営するので、仮宮は必要ない。よって「仮殿遷座祭」は行われない。

 また、靖国に祀られる軍神は、一体のものであり、分けることはできないという屁理屈をこねる人々も存在するが、これも間違っている。

 神道では、人が死ぬと、家族親類が葬祭(葬儀)を行なって、霊魂を慰霊する。この慰霊の行事は個別に行われる。通常は50日、100日、1年、3年、5年、10年の命日に行う。そして10年祭以降は5年ごとに行い、50年をもって「祀り上げ」と称して、祖霊の霊魂と一体となると考える。したがって、それ以降の慰霊祭は特別な場合を除いて、行わない。現在では、50年が30年となり、中には、50日の忌明けを以て打ち切りとして、それ以上の慰霊を行わない人々もいる。例えば、家族がある年に亡くなり、5年後に別の家族が亡くなった場合は、葬祭をそれぞれ行い、慰霊祭もそれぞれの節目に別々に行うことが本来である。時に抱き合わせて行うこともあるが、その場合でも、霊名は別々に読み上げて慰霊する。

 ここまで書けばお分かりのように、神道では、死後、慰霊の行事を行なっている場合は、霊魂は別々に存在すると考えている。「祖霊」とか「氏神」のように融合した形を認めるのは、個別の慰霊を行わなくなってからである。

 靖国神社では、「英霊」という祀り上げの神を祀っているわけではなく、個別の戦死者またはそれに準ずる人々の霊魂を個別の集合の「英霊」としてお祀りし、神社の祭典を行なっていると考えられる。そして個別の霊魂(祭神)に対しては、希望に応じて、個別の遺族参列の元にそれぞれの霊魂のゆかりの日に永代神楽祭を行なっている。

 昭和殉難者の人々も、恐らく霊票という形で、個別に祀られている。

 従って、その霊票を遷座することによって、他の戦死者またはそれに準ずる人々の霊魂と分けることは可能である。     (2023/09/16)

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