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社会意識と社会構造の相互作用による人類史

社会意識と社会構造の相互作用による人類史

 さて、人間の認識の客観性は、対象が人間の意識と関係ないもの、例えば水とか金属である場合には、容易に成立する。しかし、人間の意識に関係するもの、例えば社会である場合、それは人間の意識的な働きかけによって変化するので、相互作用を考えなければならない。自然科学と社会科学の対象はこの点において根本的に異なっていると考えて良い。

 それゆえ、社会変動を考える上では人間の欲求による社会への働きかけが変動を起こすと同時に、社会構造の変動が人間の社会意識に変化を生じさせると考えるべきである。この相互作用は螺旋のように繋がっていくこととなる。

 基軸になる人間の社会意識は、生活の安全と豊かさへの欲求である。

 人間が、広く言えば人類が自分たちの社会を作り変えようとしてきた歴史を見れば明らかなように、人々は、より多数の人々がより多くの物質的、精神的な満足感を得られるような社会を求めて改良を続けてきたといえる。個々の人間は、さまざまな欲求を持って社会に働きかけ、その構造を作り変えてきたのであるが、総合的に見ればその欲求は、物質的な充足感、すなわち生活資源の充実であった。十分な食糧の確保、安全な住居、寒暖差に耐える衣服、そういったものはすべて人類発生以来の不可欠な欲求であった。これらの生活必需物資の豊富化のためには、生産技術の進歩が必要であり、それによる生産力の発展は人類の個体数を次第に増加させるとともに、社会生活様式を変化させた。過去7万年の人類史を概観すれば、そのように考えて良い。

2、人類史の区分

 人類史を理解するためには、社会の変動を時代区分して把握することが有効である。ここでは、生産技術の革新と社会構造の変化を契機として、五つの時代に整理する。

1 原人は、森から平原へ出て二足歩行を始め、家族単位で暮らしだした。そこでは、日々の食料の調達が毎日の生活のすべてであった。現生人類の発生の頃は、人類は家族単位で生活し、それがいくつか固まって暮らすムラ社会を伴っていた。成員数は、多くとも数十人から百人程度であった。食料の調達や住まいの確保、自然災害や獣からの自衛が生きるすべてであった。もちろん生殖の営みは欠かすことができない。人々は男女の役割分担のもと、長幼の序や伝統や慣習や初期の宗教儀礼等を社会の紐帯(Social Solidarity)として生きていた。つまりある程度の組織的な序列化はできていた。また、個人意識は未成熟であったので、明確な私有観念は無かったが、ある程度の私有物はムラ単位、家族単位、そして個人単位でさえ存在していた。これが第一の時代である。

2 そこへ、第一次産業革命とも言うべき、食料革命が起きる。農耕と牧畜の開始である。これにより食料の安定供給が実現し、人類の個体数は確実に増加し出し、紀元が始まる頃には地球上で2.3億人を突破した(推計)。もちろん、食料の安定供給は備蓄を生み、それは資産となり、貧富の差が生まれ、ムラ社会の階層化と序列化が進んだ。社会の紐帯として宗教が発達し、思想ができ、様々な法が生まれた。そして、食糧危機の時には隣村を襲って食料を確保する、すなわち戦争による略奪が始まった。人類は、戦争に勝つために連携し、小国家から大国家を作り上げ、限られた富を奪い合うための戦争に明け暮れた。軍隊の序列化や社会の階層化は当然のものとなり、この状態が18世紀まで続く。これが第二の時代である。

3 14世紀になると、イスラム社会で保たれたギリシャ・ローマ文明が刺激となり、ヨーロッパでルネサンスの時代が始まり、それは宗教改革を生み、大航海時代という異質文明の相互アクセスを生み、自然科学の発達をともなって、啓蒙思想の発現につながっていく。この啓蒙思想は、それまで能力の差異による支配、非支配の関係を当然としてきた人類に、初めて人権の平等と自由という概念を与えた。それは一神教の中で生まれた「神の元の平等」から「神」を取り去ることによって生まれたとも言える。宗教の世俗化が始まった瞬間でもある。啓蒙思想は、「王が権威や権力で国民を治める国家」という国家の概念を覆し、社会の成員の社会契約による国家、すなわち、「国民が等しく国家の維持に責任をもたなければならない」という「国民国家」を生み出した。これは法の性質を根本的に変えた。それまでの上位のもの(支配者)が制定し、下位のもの(支配される人々)に与える法というものから、国民(社会の成員)の総意で制定し、社会を統御する政府(社会の指導者層)を縛り、同時に社会に安定をもたらし、人権の平等と自由を保障する法に変わったのである。つまり、法の力のベクトルが変わったのだ。これが民主主義であり、立憲主義であり、自由主義であり、自由主義市場経済なのである。もちろんいまだに国民国家を標榜しながら、実態は権威主義で、指導者が国民に法を強制する国家も存在している。しかし、歴史の流れの中で、それらも民主主義に変わっていくと考えられる。18世紀末に始まる第二次産業革命、すなわち機械革命とそれに続く重工業化によって人類の生産力は飛躍的に伸び、近代化が始まった。しかし、それは国家間による植民地争奪戦を生み、国民国家の出現とも相まって、帝国主義に基づく激しい戦争が繰り返されることとなった。第一次、第二次の両世界大戦、冷戦を通じて、20世紀は国家の時代となり、他方では、民族自決と国民国家が結びつき、多数の国家が発展途上地域に生まれた。しかしながら、この間、人類の個体数は生産力の発展に伴って伸び続け、20世紀末には60億人を超えるまでになった。これが第三の時代である。この近代化の過程は人間の意識に強い衝撃を与え、反近代の様々な動きが表面化し、消えていった。その典型は共産主義や国家社会主義の登場と衰退である。

4 20世紀の冷戦の終了から始まったデジタル化という第三次産業革命(IT革命)は、近代化の完成と社会のデジタル化を進め、人類の生活様式(文化)の画一化を生み出した。すなわち人類の地球化が始まった。グローバル化の時代である。この時代は、グローバルなサプライチェーンが発展し世界の生産力は伸び続け、次第に発展途上国をも巻き込んでいった。この経済成長に伴い、世界の貧困層は劇的に減少し、分厚い中間層が生まれるとともに一部の極端な富裕層をも生み出した。そしてそれに伴い環境破壊や資源の枯渇が人類全体の解決すべき命題となって急浮上してきた。一方、先進国ではグローバル化に伴う移民や文化摩擦、国家の流動化によって生じた国内外の諸問題に対して、グローバル化に反対し問題解決を図ろうとするポピュリズムが盛んとなった。また、一定水準の経済発展を遂げたいくつかの発展途上国の世界政治への積極的な関与が始まり、これらの動きは世界的な反グローバルのうねりとなり、再び諸国家の角逐の時代がやってきた。

 20世紀に反近代の動きが顕著となったが、最後には近代化の波がこれを押し潰したように、いずれ反グローバルの動きは収斂し、再びグローバル化と人類の一体化が始まると予想するが、未来は不確定である。これが第四の時代、すなわち現在である。

5 現在、研究開発が進んでいる人工知能(AI)とロボットの技術が組み合わされ、それが社会に適用されるようになれば、スマート社会と呼ばれる社会が実現するであろう。それは、必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細やかに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な制約を乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会と考えられる。

 もちろん、この発展は、近代化やグローバル化と同様に跛行的であり、先進国と発展途上国では、相当のずれが生じ、それが軋轢を生むと考えられる。また、社会の変化が急激であるが故に近代化やグローバル化以上に反スマート化の動きが社会の中で激しくなることも予想される。

 それは、反近代の運動の中で機械の打ち壊しがあったように、反AIや反ロボットの運動となって現れるかもしれない。まして、これらが社会の中で利用されるようになれば、そのために職場をなくす人も増えていくであろう。もちろん少子化社会に於いて労働人口が激減し、グローバルサプライチェーンの完成によって世界中が経済発展を遂げた暁には移民流入による代替もできなくなるであろうから、AIやロボットによる肩代わりも必然的になされてくるであろう。それにより職場を失う人々の痛みを和らげる政策が必要とされるであろう。

 そして、その後にはいよいよ経済の循環を正常に保つために消費者を社会制度的に創出することが必要となってくると思われる。労働者がAIやロボットで代替されるので、消費者を作り出すことを考えなければ経済循環が成立しないからである。 

 多くの人間が生産労働から離れてしまい、一部の人間のみが経済競争に従事し、富の獲得を競争する時代となることが予想されるが、その具体的な姿はまだわからない。(2025/11/12)

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