日本の産業構造の転換
21世紀に入って日本の産業構造は劇的に変わりつつある。それを考えてみよう。
かつては輸出大国として、日本は貿易で黒字を稼いでいた。つまり、生産収益型産業が中心の社会であった。日本で生産された自動車や家電製品、機械や重化学工業製品などが輸出され、大きな利益を上げていた。
貿易収支を見てみよう。2011年にマイナスに転じた貿易収支は、2016,17年に黒字転換し、 2018,19年には再び赤字となり、2020年には黒字、それ以降は赤字となっている。貿易赤字については、円安と資源輸入国という要因も存在するが、根本的な要因は別のところにある。
日本の貿易収支
| 年 | 1980 | 1981 | 1982 | 1983 | 1984 | 1985 | 1986 | 1987 | 1988 | 1989 |
| -10.86 | 8.63 | 6.89 | 20.53 | 33.52 | 46.68 | 83.20 | 80.25 | 77.48 | 64.22 | |
| 年 | 1990 | 1991 | 1992 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 |
| 52.21 | 77.79 | 106.65 | 120.64 | 122.04 | 107.23 | 61.77 | 82.20 | 107.45 | 109.36 | |
| 年 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 |
| 99.79 | 54.41 | 79.53 | 88.89 | 111.13 | 79.07 | 67.66 | 92.08 | 18.88 | 28.74 | |
| 年 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 |
| 75.72 | -32.20 | -87.28 | -117.7 | -122.0 | -23.20 | 37.32 | 26.23 | -10.34 | -15.39 | |
| 年 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | |||||
| 5.86 | -12.94 | -150.3 | -68.54 | -36.49 |
単位: 10億USドル
この変化の主要因は、日本企業が生産拠点を海外へ移転し、利益獲得の中心を貿易から対外直接投資へと移行させた点にある。つまり、海外投資収益型産業が中心となったからである。その結果、日本は経常黒字は膨大であり(2025年は31,8兆円)、海外資産残高は世界一で、現在は1,659兆221億円である。実は日本は裕福な国家である。
その結果、生産に従事する労働者は激減し、賃金は上がらない(上げることができない)構造と なった。労働者は海外で確保され、生産物は海外から輸出され、収益のみが回収される構造となった。これは、日本の少子高齢化社会の到来とともに、労働者の確保が難しくな り、労働賃金も海外と比較し高くなったことが主要因である。
さらに、現在の世界経済は、実体経済(現実に生産と消費をする経済)の上に、その数倍、数十倍の規模の金融経済が存在する。収益を得た企業は、実体経済に再投資もするが、金融経済の中での資本移動収益で利益をあげようとする。M&Aで海外企業を買収して収益を確保しようとする企業もある。金融経済と実体経済は不可分に関係している。
従って、企業収益が国内労働者に還元されにくい構造となっている。企業は株主価値重視経営の浸透により米国並みに役員報酬を上げ、株主に利益を配分しようとする。従って、株式資産を持っている人たちは潤い、そういった資産に無縁の人たちは利益に関われない。このようにして、国内での経済格差が激しくなった。
この経済格差を少しでも解消するには、以上の構造変化を前提とするならば、政策的には次の選択肢が考えられる。消費税の減税や給付金付き税額控除である。さらに進んで、海外投資で収益を上げている企業に課税し、株式収益に課税すればなお良い結果となる。つまり、産業構造の転換とともに、税制構造も転換させなければならない。企業のタックスヘヴンへの海外逃避を心配するならば、国際的な協調課税という方法がある。社会資本が充実し、少子高齢化社会となった先進国は皆同じような方向に向かうので、それは可能であろう。既に国際的な議論が始まっている。
実は、この税制構造の転換は、次のスマート社会の到来にも有効である。将来は労働者がAI搭載のロボットに変わり、労働者は一部の特殊な労働を除いて、必要がなくなり、代わって、消費者を制度的に作り出していかなければならなくなるからである。つまり、資産のあるところから税を取り、国民に分配する制度が必要となる。
そして、国内産業は、資本収益型産業、つまり、社会資本型産業と医療、福祉などの対人サービス産業が中心となるであろう。それによって、国民は不自由なく暮らし、自己の人生を充実して生きる術を得る。
なお、現在の経済状況の中で国内に生産収益型産業を充実させようとするならば、新しい技術を生み出すか、生産過程を徹底して合理化するといった隘路しかない。
そろそろ日本は技術革新を武器に輸出型産業を育成する国家から、国民にいかに国家収益を分配するかを考慮する国家に衣替えする時期である。 (2026/3/1)