2025年の展望
2025年が始まった。今年はどんな年になるか、話題をいくつか拾いながら、展望してみよう。
「今年が人類の運命の年となるか?」こう言った疑問が真実味を帯びてくる最大の要因は、言うまでもなく第二次トランプ政権である。
以前にも書いたが、上院と下院の議席の過半数を得て、この政権はやりたい放題である。第一次政権と異なって、今回は主要な閣僚をトランプに忠実な人物ばかりで固めている。
間違いなく、失政が続くこととなるので、二年後の中間選挙では、米国民から見放されて、共和党は議会の過半数を失うので、問題はこの二年間である。
すでに就任前から、トランプは、グリーンランドの購入やパナマ運河の支配権の回復を主張し、カナダを米国に併合しようとするなど、領土的な野心を剥き出しにし、同盟国から総スカンを喰らっている。
一方では、あれほど自信を持っていたウクライナ戦争の早期終結を諦めるような発言のぶれを見せている。
こんな状況を見ていると、就任後は一体何を言い出すのかと呆れるほどであるが、おそらくその主張のほとんどは実現できまい。特に外交的な事柄は、相手にされないであろうから、軍事力の脅しに出るかもしれない。
そうなると、米国は、中国、ロシアと並んで、力による国境の変更を望む、覇権国家の様相を呈していくであろう。
問題は、こう言った政権の意思に、米国の軍隊他の国家組織が命令通りについていくかどうかと言うことである。米国には理性的な官僚や軍人もたくさんいる。そうなると、考えられるのは、クーデターや内乱の誘発である。
そこまで、トランプが強硬に自分の政策を押し通そうとするかどうか?私は、無理と見る。確かに、軍隊のトップやCIAのトップに自分に忠実な人物を据えたようだが、ほとんどが素人のような人ばかり。これでは、強権を持って組織を動かすことはできまい。
さて、それでは、トランプが、経験の深い優秀な人物をトップに指名した組織はどこか?もちろん経済閣僚である。ウォール街と深く結びついた人物を指名したので、トランプを含む富裕層に歓迎される経済政策を実行するであろう。その意味では、米国経済は、底堅く推移するはずだ。しかし一方、予算削減を目的とする新設の政府効率化省のトップにイーロン・マスクとビベック・ラマスワミを付けた。これが波乱要因となるはずだ。彼らは共に、強烈なリバタリアンであることもすでに過去のブログで指摘した。
彼らは、徹底的な規制緩和を狙って、従来の役所を廃止しようとするであろうから、既存組織との多くの摩擦が生まれる。それを克服して規制緩和を行えば、市場は荒れる。市場操作を放棄するのであるから、一つ間違えば、米国経済は破綻する。
これを打開するために戦争に打って出れば、中国とロシアを巻き込み、世界は第三次世界大戦となろう。これが最悪のシナリオである。
よく言われるトランプの関税政策について考えてみる。輸入品に高額関税を掛ければ、輸出国は困るが、輸入元の米国でも、物価が高騰する。特に日常生活品のほとんどを輸入に頼っている米国では、下層の人々の生活を物価高が直撃する。石油採掘を盛んにしても、エネルギー価格のみが低下するだけだ。このようにして、インフレの直撃は、トランプを選んだ低所得の人々を苦しめることとなり、中間選挙では人心が離れるであろう。
次に移民政策であるが、トランプの発言とは異なって、移民は米国経済を支える大きな柱であるので、移民を減らし、あるいは追い出そうとするトランプの主張は、米国を偉大な国にしようとするトランプの主張と真っ向から対立する。まして移民は犯罪者を生み出してはいない。米国の犯罪を減らすためには銃規制、この一点に尽きる。そして、マスクやラマスワミは彼ら自身が移民であるように、高い知識や技術を持った移民を歓迎したいという現実的な希望を持っている。それは、白人保守層の移民絶対反対派の主張と矛盾する。
おそらく、ここが、トランプ政権の分裂を生む最大の問題点となるであろう。つまり、リバタリアンと伝統的白人保守層との対立である。
以上述べてきたいくつかの問題点を総合すれば、トランプ政権は、政権内部の対立や政策の矛盾によって、なかなかMAGA(Make America Great Again)を達成できそうにない。ウロウロしながら二年間が過ぎれば一番良い結果となる。
もう一つ、大事なことだが、トランプは、米ドルの基軸通貨としての役割を損なうかもしれない。米国経済が、グローバル化による世界経済の成長のエンジンとなってきたのは、ドルが基軸通貨であり、世界経済の成長に応じて信用通貨である米ドルを刷り続けてきたからだ。
最近では、日本ほどではないにしても、米国は財政赤字が増え出している。貿易赤字も、ここ10年以上続いている。これは、米国が世界のリーダーとして軍事支援をはじめ各所で財政支出を増大する一方、国民は自由で豊かな生活を享受する消費大国であり、中国をはじめあらゆる地域から生活物資を輸入しているからだ。
通常、この双子の赤字が累積すれば、その国の通貨は信用を失うが、米ドルはそうではない。基軸通貨であるからだ。
基軸通貨であるゆえに、いくらドルを刷っても経済は破綻しない。なぜなら、貿易黒字を稼いだ各国は、米ドル(米ドル国債)で富を保有し、世界中がドルの信用を保とうとするからだ。
しかし、トランプが関税障壁を高くし、グローバル経済を破綻させれば、ロシアや中国などBRICS加盟国は独自の経済圏を形成し、中国元を基軸通貨としようとするだろう。そうすれば、ドルを保有する必要がなくなるので、米ドルの価値は暴落し、基軸通貨の旨みを享受することができなくなる。つまり、トランプの関税政策を強行すれば、米国内のインフレ、おそらくスタグフレーションを生み出し、一方ではドルの暴落を引き起こす。
そうなれば、米国経済の崩壊だが、米国の経済学者や官僚がそれを座視するわけがない。その意味では、あまり心配する必要はなさそうである。
次に日本の経済動向を考えてみる。年初の株価は不安まじりの展開となっているが、長期的な下落傾向にはならないとみる。それは、お隣の中国が経済不況から抜け出せず、長期のデフレに陥りそうであるからだ。現在、外資は争って中国からの脱出を図っている。長期的にこの不況に耐えて、中国経済が内需中心で復活する時を待つ企業のみが残るだろう。ちなみに中国は既に発展途上国から先進国の入り口に差し掛かっている。通常先進国となれば、内需がGDPの5割近くとなるはずである。したがって、中国は内需の振興に注力しなけらばならないのだが、それを怠っている。
日本は、慢性的な円安で、国内の労働資源が投資に適正な価格となってきたので、今後は、グローバル経済の生産基地として成長を遂げていくことが十分に予想される。インド、インドネシア、ベトナムあたりがライバルとなるが、社会資本の整備度合と治安の良さでは日本が圧倒的に良いので、労働力さえ担保できれば、日本が選ばれるであろう。もちろん、グローバル経済がさらに進展するという条件付きであるが。
現在、日本では、中小企業の倒産が激しいが、これは、企業統治のIT化、デジタル化が先進国で最も遅れているために、効率的でない企業が淘汰されていると考えることができる。今後は社会資本も含めてAIの利用を推進することによって、経済成長が起きるであろう。もちろん適度な移民が必要なことは言うまでもない。
次にウクライナ戦争であるが、ロシアの西進を警戒するEU諸国は、たとえ米国の支援が切れても、ウクライナを支援し続けるので、なかなか停戦とはなるまい。ロシアとウクライナ+EUとの我慢比べであり、最初に諦めた方が負けそうである。トランプがプーチンや習近平と組んで世界の領土分割に乗り出すという不安もなくはないが、米国の理性が許すはずもなく、そんなことはまずあり得ないだろう。
英国は政権が交代して今年の変化はあるのだろうか?ブレグジットでEUを抜けても、景気は低迷したままである。19世紀に世界をリードした大国も今や斜陽国家となった。ポンドへの執着もあるので、EUに復活することはないだろうが、どのように自国のプレゼンスを保つか、難しい課題である。
21世紀は4半世紀を過ぎて、グローバル化の功罪がはっきりしてきた。世界経済の一層の成長を促し、貧困層を無くし、中間層を厚くするためにはグローバル化は必須であるが、それは、開発途上国を先進国に引き上げ、未開発国を開発途上国とする契機となるので、世界中で先進国に追いつけ、追い越せと言う国家が乱立し出した。
BRICSやグローバルサウスと言う言葉通り、それら諸国は独自の指導力を世界政治の場で発揮しようとする。そこで国家間の軋轢が生じた。日本や英国のような先進国が斜陽化することは必然であり、米国の一極指導体制の崩壊が言われるのも必然である。
グローバル化が順調に進めば、主権国家が解体され、人類全体が一つの経済圏の中で結びつくはずであったが、そのようにはならず、諸国家が自国の権威のプレゼンスを上げようとして、国家の権威にしがみつき、移民や経済交流を拒否しようとする「反グローバルのうねり」が顕著となってきたのが現在である。
しかし、別の兆しもある。シリアのアサド政権の崩壊は、ロシアの中東への影響力を失わせ、EUと中東との距離を縮めるであろう。穀物と石化エネルギーの流通経路を変える可能性がある。そうなるとロシアにとっては打撃である。ロシアの国力の低下は、ロシアの民主化の契機となるかもしれない。
中国経済の泥沼化は、中国国民の不満を誘発し、習近平の権威主義体制を揺るがせ、民主化の兆しを生むかもしれない。かつてゴルバチョフが目指したように、権威主義は古い体制の遺物であり、それを捨て去り、改革・開放を核とする民主主義体制へ移行することこそが、国家が生き延びる道であるのだ。そしてグローバル化の終着点として、世界が一つの経済圏や政治圏となって、人類が共存と共和の道を進まなければならない。平和と豊かさを求めて戦争を繰り返してきた人類が行き着く世界はそこにある。(2025/01/12)