社会学の意義
日本の大学、あるいは大学院の社会学の教科書として最も使用されているのは、おそらくアンソニー・ギディンズ編著の「Sociology」である。
その第1章の冒頭は、次のように書かれている。
「私たちが今日ー21世紀初めにー暮らすのは、極めて気がもめるとはいえ、稀に見る前途有望な世界である。それは現代のテクノロジーが自然環境に加える破壊的猛攻撃だけでなく、深刻な争いや緊張関係、社会的分裂がひときわ顕著な、変化に満ちた世界である。しかしながら、私たちは、みずからの運命を制御し、前の時代の人々が想像さえできないかたちで自分たちの生活をより良いものに作り上げる可能性を手にしている。」(ギディンズ:「社会学」第5版)
つまり、現代は課題の多い複雑怪奇な社会であるが、その未来の可能性は明るいのである。
明るい未来を実現するためにはどうすべきか?本書は続けてこのように言う。
「このような世界はいかにして生じたのだろうか?今日の私たちの生活条件は、なぜ父母や祖父母のそれと著しく異なるのだろうか?将来、変化はどのような方向に進むのだろうか?これらの問いは社会学の最重要な関心事であり、それゆえ社会学は、現代の知的文化で知の基盤となる役割を演じていく研究分野である。」(同上)
つまり、知の基盤を作り上げる、社会に対する基本的な知識を高めていくことが必要であり、社会学を学ぶ意義もここに存在すると言う。
現代世界の変化は、日を追うに連れて加速度的に早くなり、現代社会のさまざまな問題に対する評論は日々作り出されている。総じて将来に対する悲観的な見通しが多い。曰く。地球温暖化対策は遅れている。曰く。第三次世界大戦前夜である。曰く。世界経済の崩壊はカウントダウンに入った。などなど。警鐘を鳴らすと言う意味で悲観的であることは理解できるが、それ以上に暗い見通しが極めて多い。
それに対し、現代社会を理解するために最も適した学問である社会学は、世界(人類)の将来に楽観的で明るい未来を与えている。なぜか?
それは、第二次産業革命(機械革命)以降の近代化の激変の中で成立した社会学が、緻密に近代社会の変化を研究し、到達した結論が、人類とその社会は日々進歩している、すなわち良い方向へ向かっているという確信に満ちているからである。
私が書くこのブログが、極めて楽観的で、平和的であるのは、社会学の成果を基礎としていることによる。
そして、常に主張しているのは、現代に生きている人々の社会意識の向上である。現代社会を正しく考察できれば、決して悲観的な考え方に片寄ることはない。
一方、人々が未来に暗い見通しを持っているならば、社会は自然に崩壊の道を進んでいく。今こそ、私たちは、全員が、社会学の見通しを信じて、前向きに、人類社会を共存と安定の道に進めてゆかねばならない。一人一人の社会に対する意識が良い方向に進むことによって、社会が全体として現実に良い方向へ変化していく。社会は自律的に変化するのではなく、人間が人間の意思によって、一人一人の行動の積み重ねによって、主体的に変化させていくのである。民主主義や契約社会の大切な意味がここにある。(2023/07/19)