トランプ政権の歴史的役割
私は最近、トランプ政権を見直している。これまでは人類史に逆らうものとして散々にこき下ろしてきたが、ここに至って良い役割を担っているのではないかと考えるようになった。
啓蒙思想以来、人間を個人として平等に扱い、政治権力の集中を防ぐ法システムとしての民主主義と、市場に参入する個人の自由を平等に認める市場経済に基礎付けられた資本主義は、先進国を先導者として、世界を近代化し、さらにグローバル化し、人類がその発生以来追及してきた生活資源の十分な供給体制を作り、貧困層を無くすことに貢献してきたことはすでに度重ねて述べた。
しかし、20世紀前半に反近代の波が押し寄せ、それは、国家レベルの擬似共同体を志向する枢軸国と民主主義を国家の理念とする連合国の対立による第二次世界大戦とそれに続く冷戦につながっていった。共産主義は、その主張とは異なり、実質は、共同体の存続を主張する反近代の装置であって、それにもかかわらず社会の近代化を志向したので、矛盾が露呈し、崩壊していき、1990年代に滅び去った。
代わって、いくつかの権威主義の国家が誕生し、市場経済を取り入れ、後発性であるがゆえにグローバル経済の中で大発展を遂げた。しかし、その政治体制が民主主義ではないので、市場経済が生み出す個人の自由との軋轢が生じ、成長が停滞するようになる。
権威主義の体制からうまく民主主義の体制にスライドした国家は、引き続き発展している。
世界的に見て、グローバル化によって、多くの国々の経済が発展し、力を得た諸国は世界政治の上でもプレゼンスを主張するようになった。移動が自由になった世界は移民や難民が先進国に押し寄せ、それは、先進国の政治のポピュリズム化を生んだ。グローバル化の究極は主権国家の消失と世界政府の樹立へ進むはずであるが、その前に、国家の存続にこだわる反グローバルのうねりが顕著になってきた。
現在の世界を総括すればこんなところである。
20世紀の反近代のうねりが大きな戦争や対立につながったように、21世紀の反グローバルのうねりも第三次世界大戦か限定核戦争につながっていく可能性を予見していた。しかし、最近のトランプ政権の動きは、その心配を解消してくれているように思われる。
トランプ政権の目指しているところは一国完結の経済体制である。資源とエネルギーを確保し、すべての生活資源を米国内で生産し、消費しようとする。人類が苦労して作り上げた世界のサプライチェーンを関税戦争によってズタズタに切り裂き、世界の指導国としての米国の役割を放棄し、18世紀末の一国主義に回帰しようとしている。トランプ派が敵視したディープステートとは米国の官僚組織であった。その解体とスリム化を徹底的に図っている。リバタリアンの望む小さな政府であり、その過程で、民主主義の法システムは崩壊寸前である。トランプは米国を破壊している。
これらの試みはもちろん米国にとって悲惨な結果をもたらすであろう。米国経済は崩壊し、世界経済も成長を止め、米国の権威は地に落ち、人類の進歩は停滞する。
そこで、米国を敵視する国々は、米国の行末を固唾を飲んで見守っている。ロシアは、ウクライナとの戦争を米国主導で停戦すれば自国に有利とみて、任せようとしている。中国も一路一帯の世界戦略を停止して、しばらく様子を見るであろう。台湾を平和的に併合できる道が開かれるかもしれない。
ウクライナは死力を尽くして戦ったのに、不利益を被るかもしれない。アラブ諸国、とりわけエジプトはガザに居住していたパレスチナ難民を受け入れざるを得ないかもしれない。トランプ政権のもとでも、米国の軍事力は世界最大であるからだ。
このように考えると、今のトランプ政権は、戦争によらずに世界の枠組みを破壊しようとしている。つまり、反グローバルのうねりの世界に対する最終打撃を平和的に行おうとしていると言える。
おそらく、トランプ以降、世界は再びグローバル化の必要性を再認識し、世界のサプライチェーンの再構築と、世界政治を調整する国際組織の再整備に向かって協力することになろう。世界経済の順調な発展と、人類が共同して環境問題に取り組む必要性はますます喫緊のものとなっていくからである。その中で、権威主義国の民主化も取り組まれていくことが望ましい。
これからの世界は、社会的に目覚めた諸個人が世界的に連携して、人類全体の問題に自覚的に取り組んでいくことが必要である。そのための技術としてコンピューターやAIが利用されねばならない。(2025/02/14)