TPP参加と共同富裕・分裂する中国
中国が、TPP参加を表明した。ヒト、モノ、金、情報の自由な流通が世界経済発展の要であり、平和な世界を作るための鍵であると考えるならば、これは歓迎すべきことだ。
しかし一方、中国は、共同富裕の掛け声の元に、これまでの市場経済路線を捨てて、共産主義理論の「能力に応じて働き、必要に応じて(生活費を)得る」路線にシフトしようとしている。これは自由競争に基づく経済成長を否定し、管理型の経済に移ろうとするものだ。
いったいなぜ、このような分裂した政策が遂行されようとしているのか?考えられるのは、それぞれの政策は異なった頭から出ているということだ。つまり、第二次文革とも言われる共産主義強化路線はリーダーである習近平の発想であり、TPP参加は、中国科学技術院という政策集団の発想であると思われる。
この二つの矛盾した路線を同時に取ろうとすれば、中国は崩壊する。TPP参加には、域内同様の自由流通と自由競争を中国国内に保障することが不可欠であり、それを否定する共同富裕路線とは根本的に相容れない。
元々、共同富裕とは、共産主義の目標であったが、かつての共産主義社会で実現したのは、共産党員が大衆を支配し、特権を享受する社会であり、大衆は自由競争を保証されないので、経済成長のエネルギーが生まれない不活発な社会である。これを活性化させるために、指導部は全体主義の政策を取り、人々の人権を奪うこととなる。
TPPは、平等な立場からの自由競争を通じて、全体の経済の効率的な発展を追求するシステムであり、平和で豊かな世界を実現するために必要なシステムである。全体主義とは根本的に相容れない。
この矛盾した政策を同時に主張することは、中国衰退の前兆であるとしか思えない。TPP参加を断られ、国内においても自由競争を廃止することは、国際資本の中国からの離脱を招き、中国経済の劇的な後退を招くだろう。それは世界経済にとってもマイナス要因であり、世界の政治バランスを崩すことにもつながる。結果的に、21世紀後半は激動の時代となるかもしれない。中国政府に良き理性が復活することを心から期待したい。 ( 2021/10/01)