宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

ウクライナ戦争の意味

2022年11月9日   投稿者:宮司

 2022年2月24日に開始された、ロシアが特別軍事作戦と言い張る、宣戦布告なき戦争の歴史的な意味について、そろそろ考えてみよう。

 NATOに代表される西側の諸国は、一様にウクライナに援軍を送ることはせず、代わりにロシアを経済封鎖するというソフトな戦略をとり、限定的な武器をウクライナに供与し、その使用法を訓練し、ウクライナとロシアという限定的な地域戦争に封じ込めた形で、ウクライナを支援した。

 ウクライナも、過度な要求はせず、限られた条件のもとで、西側の価値観を代表してロシアと戦うことを選んだ。

 元々、ウクライナという地域は、独立を求めながらも、ロシア革命や第一次、第二次の世界大戦の中で分断され、互いに戦わされ、また、作為的な飢餓に苦しめられ、苦難の道を歩んできた。冷戦の終結とともに、独立を果たし、近年、民主化と市場経済化の中で、近代化を成し遂げていたので、この果実を離さまいと大国ロシアに果敢に挑んだのである。

 かたやロシアのプーチン大統領は、大ロシアという誤った認識を持ち、近代社会となったウクライナの人々の意識の変化を認識せず、侵攻すれば3日間でロシア寄りの政権を樹立できるといった誤解に基づき、軍事作戦を強行したために、今では、引き際を失して、立ち往生の塩梅である。

 人類史の中で、このロシアの軍事侵攻はどんな意味を持っているのだろうか?
近代化が達成された社会若しくは国家においては、利益を得る手段としての戦争は意味を失い、人類は、分業と連携により豊かな生産物を享受し、平和で安全な法治社会(国家)を実現したように見えた。そこでは、グローバルなサプライチェーンが完成し、先進国間では、もう戦争のような馬鹿げたことは起こらないと思われた。

 しかし、ロシアはウクライナに侵攻した。自国の安全保障ということが大義名分であった。本来、ロシアの安全と経済開発は、EUやNATO諸国との安定的な友好関係による相互扶助を通じて得られるものである。プーチンとその取り巻きは、完全に状況を見誤ったのである。たとえNATOがロシアを取り囲んだとしても、エネルギーをロシアに依存する国々はロシアを脅かすことはできない。むしろ、ロシアをEUに取り込んで、共存することを選んだはずである。ところが、軍事力だけのパワーバランスを安全保障の要件と信じる古臭い頭のロシア人たちは、やらずもがなの戦争を仕掛けたのである。

 そして、結果はどうであったか。ロシアは9ヶ月を経過しても、当初の目的は達せず、目標をクリミアとウクライナ東部を結ぶ地域の支配に切り替えてみたが、それすらも最近では危うくなってきて、このまま通常兵器のみの戦闘が続けば、ロシアはクリミアを含め、ウクライナの地から駆逐される様に思われる。

 世界はどうか? サプライチェーンがエネルギー分野も含め、あらゆる生産過程においてズタズタにされ、輸入品が高騰し、インフレが猛威を振い出している。これは西側諸国がロシアを経済封鎖しただけでなく、中国を敵視する米国が、世界の工場としての中国を弱体化させようとしているところが大きい。そしてインフレは世界政治をも不安定化させ、米国の中間選挙の動向にも影響を与えている。

 新冷戦という言葉が飛び交い、世界は専制主義の国家群と民主主義の国家群に分かれて対立が深まると予想する人々もいる。このまま対立と戦乱の時代に突入するならば、まさしく人類は崩壊するに違いない。また、対立を続けるならば、折角協調して地球温暖化という喫緊の課題に取り組んできたことも続かず、環境問題により人類は終焉を迎えるであろう。

 しかし、一度は相互協力によりグローバルなサプライチェーンを作り上げ、自由貿易と国際会議を通じて戦争を否定し、世界を平和で豊かな社会に導く枠組みを作った人類が簡単に自壊するとは考えられない。

 今こそ、全人類がインターネットの社会を利用して個人レベルから世界世論を作り上げ、もう一度、グローバルなサプライチェーンを再構築し、戦争や対立のない相互依存と相互協力の社会を目指して進むべきときである。個々人の意識の向上こそが要なのだ。

 そうなれば、ウクライナ戦争は、人類が戦争を無意味なものと確定した、その節目を示すものとなるはずである。  (2022/11/09)

世界-経済