宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

日本の経済政策の問題点

2022年9月19日   投稿者:宮司

 以前に、「アベノミクスの功罪」というブログ記事を書いた。そこでは、「アベノミクスとは、為替を円安に誘導することによって生じる経済指標の変化が一律ではなく、タイムラグがあることを利用して、市場に、経済が成長するという錯覚をもたらし、動きを与える魔術である。」と書いている。現在、その後遺症が出現して、極端な円安に日本は戸惑っている。

 アベノミクスとは、円安誘導を利用して、見かけの経済成長を演出し、株価を釣り上げ、輸出企業の利益を増やし、「トリクルダウン」、つまり、利益を増進させた企業がそれを新規投資や社員の賃金上昇に配分し、結果として真の経済成長を起動させようとしたものである。

 そのために、日銀は国債の買いオペという禁じ手まで使って、異次元の金融緩和を行い、政府は数々の規制を緩和し、新規投資の道筋を作った。

 しかし、結果として、それほど投資効果は上がらず、賃金は上昇せず、真の経済成長は起動しなかった。成功したのは、株価の上昇である。2012年に1万円程度であった日経平均は現在2万7千円あたりを推移している。ただし、これをドル・ベースで換算すると、2012年の1万円は、当時は1ドルが80円であったので、125ドル。2022年現在、1ドルが145円として186ドル。48%の上昇である。実質の上昇はこんなところだ。

 世界は、金融緩和から引き締めの時代へ移り、今年に入って一人超金融緩和を続ける円を狙い撃ちにした為替相場は、著しい円安に動いたのである。

 このような経済の推移は何が原因であろうか?

 世界の経済学の流れは、第2次大戦直後のケインズ経済学から、貨幣供給量重視のマネタリスト的な政策やサプライサイド重視の政策に変わった。

 それはなぜか?

 ケインズ経済学に基づく政策の目玉は、簡単に言えば、不景気の時には、金融を緩和するとともに、公共投資を増加し、総需要を刺激する。そうすれば、実物経済が経済成長を起動するということだ。

 しかし1990年代の日本は、宮澤内閣や橋本内閣を代表としてバブル破綻の後始末とともに度重ねて公共投資による経済成長の起動を試みたが、悉く失敗した。これは何故か?

 冷戦終結後の世界で、世界経済のリーダーを自負する米国と英国、つまり当時の二国の指導者であった、レーガンとサッチャーは、新しい市場の開発を目的として、金融市場を世界化し、規制緩和により、投資市場としてその門戸を開いた。

 この決断と今に至るIT技術の発達によって、世界は、実物経済と金融経済に二分化し、コンピューターのキーを叩くことによって巨万の富を作り出す、あるいは巨額の損失を作り出す人々を生み出した。

 そこで、金融緩和や公共投資によって実物経済から富を得た法人や個人は、それ以降は、その利益を金融経済に投資し、実物経済の成長の起動のための投資をすることを控えるようになった。そして巨大な金融経済は、M&Aによって会社を大きくすることを可能とし、これまでのような技術開発や合理化を地道に進めて会社を成長させるといった方策を無意味なものとしたのである。

 それは、ケインズ以降のマネタリズムやサプライサイドの経済政策についても同様であった。つまり、実物経済に直接投資されるべき利益が金融経済に投資されてしまったために、トリクルダウンも起こらず、実質的な経済成長の起動も夢と化したのである。

 2000年代に入って小泉内閣は規制緩和、特に大企業による非正規労働者の雇用を可能とし、低賃金労働者を大量に生み出し、労働賃金の低下による企業収益改善に道を開き、また、郵政の民営化によりその部門の競争を激化させ、特に米国資本へ投資機会を提供することを通じてグローバル化に舵を切り、一旦は経済成長を起動させた。しかし、これも収益を得た法人が、その投資先を金融経済に向けたことにより、本格的な成長とはならなかった。アベノミクスも同様である。日本は資本収益に頼る国となりつつある。

 要するに、利益を得た法人、個人が資本収益を求めて金融経済に過剰に投資するという現在の状況を何らかの形で改めない限り、いくら民間に貨幣を供給しても、それは実物経済の成長につながらないということだ。つまり、収益を得た法人に、事業収益を目的とした投資を行うマインドを持たせるような政策を工夫しなければならない。かつての護送船団方式と世界から揶揄された頃を思い出せば良い。当時ならば通産省、現在であれば経済産業省の指導力が問われる。

 世界経済は、うまくグローバル化を進めれば、地球上のすべての人々が先進国並みの文明的な生活を送ることができるようになるまで、経済の成長が進むはずである。現に2012年の世界経済の規模は75兆ドル、2022年は100兆ドルを超えると予想されている。IMFの世界経済見通しによれば、ウクライナ戦争とロシアへの経済封鎖があったとはいえ、2023年は世界で3%、先進国で2.2%、日本で1.2%の経済成長が予想されている。

 これはあくまで見通しであって、諸条件が変われば容易に変化する。政府と日銀は、種々の条件を考慮しながら、大局的な見方のもとに適切な財政金融政策を進めることが期待される。(2022/09/20)

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