宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

近代化と権威主義

2022年4月24日   投稿者:宮司

 生産力が低かった頃の人類は、食糧や富を求めて、戦争を行い、略奪を繰り返していた。名目はどうであろうと、戦争の本質は富の簒奪であった。

 18世紀の産業革命に始まる科学技術の進展と啓蒙思想のもたらした自由で平等な社会の追求は、戦争ではなく、互いの違いを超えた協力と協働によって生産力が飛躍的に増加し、平和で豊かな社会を築くことができるという道筋を人類に与えた。近代化である。

 近代文明はそれまでの民族文化の違いを超えて、全ての人類に便利で豊かな生活という一つのイメージを与え、あらゆる地域の社会が経済的な豊かさを平和的に追求し、先進国の人々は同じように平和で豊かな社会を満喫し、さらに発展途上国の人々も、Sustainable development を続ければ、グローバルなサプライチェーンの元で全ての人々が近代化された豊かな社会で共存し、地球上で存続する道が開かれたように見えた。

 しかし、それは、束の間の夢であったようだ。国際法に違反するロシアのウクライナへの侵攻と戦争犯罪、そしてその欺瞞に満ちた正当化の論理は、人類の環境を一気に一千年前の時代に引き戻した。

 現代は情報化の時代である。いくら誤魔化そうとも、実態は立ち所に全世界に知られ、近代化された人々は、唖然として、そして激しい怒りに駆られてこの戦争を注視している。

 しかし、ロシアは、いやプーチンは開き直り、ソ連時代の遺産である核戦力で人類を脅しながら、ウクライナの社会資本を破壊し、民間の人々を虐殺し、あるいはロシアの僻地に連れ去り、民族浄化ともいうべき非道な行為を続けている。放置すれば、ロシアは、モルドバやジョージアに侵攻し、さらには、旧東欧圏としてソ連に組み込まれていたポーランドやハンガリーやチェコやルーマニアにも侵攻するかもしれない。プーチンはソ連圏の復活を夢見ている。NATO諸国は、いや民主主義諸国は本気で通常戦力の戦いでロシアを打ち破り、ロシア軍をウクライナから排除すべきだ。それと並行して、外交的な解決を模索するべきだ。

 また、西進や北進が軍事的に強い抵抗に遭えば、矛先は日本に向かうかもしれない。すでに北海道はロシアのものであるという議論がロシア国内でなされているという。北海道は、防備を固め、国民をミサイル攻撃から守るためのシェルターを各所に早急に作らねばならない。

 この元凶は、権威主義、あるいは独裁主義という怪物である。近代化の途中で、効率的な経済成長を求めるあまり、一人、あるいは少数の人間に一旦独裁的な権力を与えた場合、権力を掌握した人物は旨味を知ってその永続を求め、権威主義の体制を作り出そうとする。「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対に腐敗する。(アクトン卿)」のである。このようにして、北朝鮮やロシアや中国の体制が作り出された。日本はこの3カ国に囲まれている。しかも、3カ国とも核兵器を装備している。ロシアがプーチンの権威主義の支配領域を広げようとしているように、いつ北朝鮮や中国が理性を失って領土の拡張に走るとも限らない。日本人は、覚悟して体制を整えなければならない。米国やオーストラリア、カナダといった民主主義国とNATOのような固い軍事同盟を結ぶ必要がある。権威主義の国に国際法の遵守や理性を期待してはいけないことを、今回のロシアの行状は示している。日米同盟が信用できないから独自の軍事力をといった悠長なことを考えている暇はない。すでに非常時と覚悟する必要がある。

 人類はここで諦めてはならない。権威主義の蔓は自由で平和で豊かに共存する人類社会の到達に向けた最後のハードルのようなものだ。そして、権威主義は、近代的な生活を享受する人々が多数となり、情報がオープンな社会が到来すれば、必ず内側から崩れていく。権威主義の国々はそれを恐れて、情報の統制に躍起となるが、科学技術が進歩し、情報社会化が進めば、統制しきれず、人々は真実に目覚め、体勢の変革を要求する。一旦、自由で平和で豊かな近代社会の果実を味わった人々は、決して後戻りはしない。ウクライナの必死の抵抗も、旧東欧圏の国々がEUやNATOへの加盟を自ら希望するのも、それが理由である。

 その意味では、中国が最も体制の変革の可能性がある。元々、習近平の出現以前は集団指導体制に近かった。民主主義先進諸国と経済的なつながりも深い。すでに近代社会の果実を享受する人々も増えている。問題は、未だ人口の多数を占める年収1万ドル以下の暮らしを強いられている人々である。この人々が自由な言論と経済的豊かさの大切さに目覚めれば、中国は民主主義に変わる要素が最も強い。幸い、日本と中国は政治的にも経済的にも強い結びつきがある。これを生かして、一日も早く、中国の民主化を促すべきだ。それは、世界的なサプライチェーンの存続や世界的な経済の安定、そして何よりも中国国民の自由で豊かな生活に寄与することになる。

 中途半端な近代化の途中で民主化の舵を切った場合は、アラブの春のように、新たな権威主義の社会が訪れることもある。充分に民主化された社会でも、ポピュリズムの果てにトランプのような独裁的な指導者が選択されることもある。彼がずる賢くなかったのは米国の幸運であった。人間の中に潜む権威主義への志向はよくよく注意されねばならない。そのためには、権力は分散されなければならないという、民主主義の価値の教育が最も大切である。

 今は危急の時であるが故に、軍事力を重視せねばならないけれども、これは一時的なものだ。危機が去れば、民主的な国々の軍事力は統括され、人類全体の危機に対応するべく整備されなければならない。主権国家は収束の時代に向かい、核兵器は統御されるであろう。(2022/04/24)
 

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