宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

ゴルバチョフとプーチン

2022年3月6日   投稿者:宮司

私は、ゴルバチョフ氏と握手をしたことがある。

 2005年、五井平和財団は「平和の文化」特別賞受賞者としてゴルバチョフ氏を招き、東京国際フォーラムで記念講演会を開催した。そのパーティでお会いし、「あなたの決断は世界を良い方向に変えた。素晴らしい。」と下手な英語で挨拶した。

 もし今、プーチン氏に会う機会があるとしたら、「あなたの決断は世界を滅ぼそうとしている。やめて欲しい。」というだろう。

 この二人は、それほど対照的である。ゴルバチョフがデタントの流れを作り、世界を核戦争の脅威から救ったが、プーチンは巡航ミサイルの開発を進め米国との核軍拡競争を再燃させ、中距離核戦力全廃条約を失効に追い込んだ。

 この違いは何に起因するのだろうか。

 ゴルバチョフ氏の記念講演の中身からそれを窺い知ることができる。彼はいう。

「(前略)科学や社会の領域では、新しい現象を研究し、その結論は私がいまでも多くの面で大きく関わっている政治の世界でも重要なものとなってきています。そのような状況の中で私が支持したいのは、これからは現代社会に生きる市民は新しい知識で武装していくという考え方であります。

歴史は歩みを速めてきました。これに伴い、人の意識が、歴史の進む速さについていけなくなるという危機が存在し、それにより世界のプロセスをコントロールする動きに過ちが起こりつつあるといえます。多くの有識者は「歴史は決して運命的なものではない。他の選択があるはずだ」と考えています。本来ならここでリーダーが責任とリーダーシップを発揮しなくてはなりませんが、それは欠如しています。

しかし歴史のプロセスの中で重要な役割を果たすのは人間であり、市民です。私たちは世界で起こっている歴史のプロセスを覆したり止めることはできませんが、プロセスの意味を理解することはできます。歴史のプロセスの特徴を明らかにし、調和する形で適切な行動をとっていくことが大変重要なのです。

           (中略)


優れた研究者たちも含めて多くの人々は、すべてをすぐに理解することは不可能なのだからなるがままに任せておけばいいと考えています。「弱い者は滅び、強い者は勝つ」。これを当然と考えるのは非常に恐ろしいことです。政治の言葉にすれば社会的進化論に任せろということになってしまうからです。


このような性格を帯びている現在のグローバリズムの中では、自然発生的に世界の問題は緊迫化へとつながります。


しかし今世界では、このようなグローバリゼーションに対する抗議が巻き起こっています。私たちは世界の、民族的、文化的、そして自然における多様性を守っていくことが重要です。それでこそ安定と繁栄した世界を得ることができるのです。


今の世界では、私たちの目の前には3つの挑戦が立ちはだかっています。1つは大量破壊兵器の拡散やテロといった「安全への挑戦」。2つめは「貧困への挑戦」。そして3つめはいまやグローバルな性格を持つようになった「環境破壊への挑戦」です。このように私たちは、大変に大きな問題に直面しています。私たちは、力を一つに結集し問題の解決にあたらなければならないのです。(後略)」(五井平和財団ホームページより引用)


 すなわち彼は、グローバリズムが一つ間違えば弱肉強食という間違った結論を生み出す。それは時代の意味を理解できないリーダーの稚拙な決断によってもたらされる。これを防ぐには、市民の知識武装、つまり、世界の個々の人々がより良い知識で成長し、人類が誤った方向へ進むことを市民の力で是正しなければならないと説いている。


 2005年といえば、グローバリズムの良い面と悪い面があからさまに噴出しだした時期である。すなわち世界規模のサプライチェーンの成立により、中国をはじめとする新興国の経済開発が進み、世界は戦争によらずに富を得る道を見出した一方で、世界規模の環境破壊や貧困地域の内戦やテロリズム、資源の争奪という悲劇に苛まれていた。


 今回のウクライナ戦争は、IT社会の発達により、世界の世論が戦争の抑止に力を発揮する一方、プーチンの、過去の時代を踏襲した軍事力による自国都合の問題解決という両面をもっている。


 ゴルバチョフの予見通りである。


 プーチンが時代を読めない稚拙なリーダーであるとしても、その政府部内には、核戦争の引き金を引かせない明晰な人々も何人かはいるであろう。そのような人々が世界の世論を見据えた正しい決断をすることを期待したい。   (2022/03/06)

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