宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

ウクライナの悲劇

2022年2月27日   投稿者:宮司

 ウクライナへのロシア軍の侵攻に反対する国際署名に賛同した。いかなる理由があろうとも、軍隊という暴力装置により他国を侵略することは許されない。

 プーチンは自国の防衛のためというが、あらゆる侵略戦争が防衛の名の下に始められるということは常識である。大日本帝国も、満蒙は日本の生命線と言って大陸を侵略したのだ。

 帝国主義の植民地争奪戦の時代はさておき、グローバル化の今日、前時代的な理屈でこのような戦争が始められたのは、驚きである。

 ロシアを含む、世界中の知識人たちがこの戦争に異議を唱えている。プーチン氏の人間としての信用失墜は、世界的なものである。おそらく、ロシアはウクライナを軍事的に屈服させたとしても、その後の世界世論と経済制裁により、国家の衰退は免れまい。また彼はソ連当時の支配領域の復活を目論んでいるとの評論があるが、そうなれば第三次世界大戦と核の撃ち合いによる人類の滅亡である。歴史に悪名を残しても、それを語る者はいない。

 元々、クリミア併合による経済制裁で、プーチンは身動きが取れなくなり、暴発したと考えられる。ちょうど、大日本帝国がABCD経済包囲網により、大東亜戦争の開戦を余儀なくされたように。なぜ外交交渉しなかったのか不思議でならない。彼の個人的なプライドが原因であるならば、世界の悲劇だ。

 経済ベースで見てみよう。ロシアの一人当たりGDPは2021年、USドルで1万1千ドル。日本の4万ドル余りと比較すれば、経済水準ははるかに低い。2013年のロシアは1万6千ドルであったが、現在は1万1千ドル。日本は2013年も現在も変わっていない。世界経済の拡大を前提とすれば、日本も相対的に低下したが、ロシアはさらに深刻である。最も、その間にルーブルを切り下げているので、ロシア・ルーブルとしては少し上がっている。これは日本も同様である。円安誘導で、円ベースでは景気上昇と見える。

 すでに、軍事力で物事が解決できる時代は終わっている。それがプーチンには見えなかったのだ。これからロシアとその国民はさらに経済的な困窮に襲われることとなるであろう。

 それにしても、現在、全滅を覚悟で、ロシア軍と独力で戦っている4千万人のウクライナの人々には頭が下がる。古代のイスラエル、マサダの戦いを彷彿とさせる。18歳から60歳までのウクライナの男性が戦士として投入されているという。世界はこの悲劇を見過ごしてはならない。ロシアを含め、全世界の世論で、この暴挙を一刻も早く止めさせなければならない。

 元々ウクライナは、1917年のロシア革命ののち、ボルシェビキがウクライナをソ連化しようとして、この地域に攻め込み、第一次世界大戦中の各国軍やウクライナの諸勢力も加わり、激しい戦闘が繰り返された。1918年にはウクライナ人民共和国を樹立し独立を手にしたが、第一次世界大戦の終結と共に全土で内戦状態となり、ポーランドとともに赤軍と戦ったが敗れ、また当初赤軍と共に白軍と戦った農民アナキストたちは赤軍の手により大量虐殺された。こういった激しい戦闘ののちにソ連の支配下に置かれた歴史を持っている。

 そして第二次世界大戦では、当初独ソ戦の主戦場となり、撤退時のソ連による大量虐殺やナチスドイツによる強制労働収容を受け、域内のユダヤ人50万人を含む700万人が虐殺されたという。敗色濃厚となったナチスドイツは、ウクライナの独立を餌に一部のウクライナ人を中心とした外人部隊を編成し、スターリンのソ連軍と戦わせた。一方ではソ連軍に編成されたウクライナ人たちはナチスドイツ軍と戦い、死んでいった。その数は270万人とも言われる。すなわち、二度の大戦に巻き込まれながら、民族の独立を求めて凄まじい数の犠牲者を出してきたのが、ウクライナである。

 冷戦後、共産主義の頸木から逃れたウクライナが、自由で民主的な国家を理想としたことは当然である。そして現在、再びロシアの侵略にあい、死に物狂いの戦いをしているのだ。

 日本は、侵略された経験は少ないが、逆に侵略した経験は豊太閤の時代から度重ねてある。ロシアのウクライナ侵略のようなことが起きると、日本国内に軍事力の充実を声高に叫ぶ人々が多くなるが、その誤用には十分に注意せねばなるまい。同時に、現在は軍事力の強弱のみで安全保障が保たれる時代ではないことを理解しなければならない。   (2022/02/26)

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