宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

我国を越えて

2013年1月26日   投稿者:宮司

以下は、愛知県神社庁の機関誌「宮柱」の巻頭言の一つです。平成18年に書きました。

 当時話題となった、地球温暖化の問題を、日本人の意識構造とからめて、解説しています。この問題は、現在もなお、人類にとって、解決を要する喫緊の課題です。

 「我国」を越えて

古来、神社人は「和」を大切にし、「我」を強調する西洋とは一線を画して来た。「我」のぶつかり合いを前提として、人々の共存をルールによって確立しようとする啓蒙的民主主義の対極としてのアジア的民主主義の思想である。しかし、国家間の問題となると、「我」が出てくる。「我国の食料自給率は低い。」「我国の防衛体制は不備である」等々。なぜか?外国は信用できないからである。しかし、今は、そんなことを言っている時代ではない。「我国」の経済は、世界市場と言う場で成功を納めている。日本の食料の六十パーセントは海外からの輸入であるが、これは、安定した国家間の関係に基づく自由な市場が世界的に成立している結果である。「我国」の防衛は一国で行っていない。「核の傘」をとりあげるまでもなく、自衛隊の情報や作戦はアメリカ軍のそれと繋がっており、また、中国やロシアとの緊密な経済関係や外貨準備によるアメリカの国債の買い支えが、「我国」の防衛の有力な手段となっている。すなわち、世界は、多方面に渡って諸国家が緊密な協力関係を維持して行かなければ、世界そのものが立ちいかなくなってきたのだ。もちろん、北朝鮮やイラン、イラクといった例外もある。そのような国に対しては、世界がたしなめるような体制ができつつある。その中心となっているのがアメリカであり、追随者は英国と日本、少し距離をおいて協力をするのが英国以外のEU諸国など。中国とロシアはアメリカと一定の距離をとって、アメリカ的な価値一辺倒となることを牽制している。もちろん、中国もアメリカの国債を買い支えているし、ロシアもアメリカと深い経済的な結び付きを作っている。

 神社界もそろそろ「世界」を視野に入れたらどうか。今、「世界」には、大きな危機が迫ろうとしている。「地球温暖化」という人類絶滅の危機がじわじわと近付いている。

 二十世紀の百年間に地球の気温は0.6度上昇した。このまま放置すれば、2030年には、2度、2050年には3度、そして2100年には5.6度上昇すると予測されている。2度が生命線である。これを突破したら、人類の十分の一は今世紀中に死滅する。これを防ぐには、地球緑化と同時に石化燃料の消費を規制し、エネルギーと物の消費に浮かれる生き方を止め、環境に配慮したエコプロダクツを使用する。このようにすれば温度上昇を防ぐことができる。地球上の砂漠化を防ぐ緑化に、内モンゴルで取り組んでいる日本人が存在する一方、日本人がお値打ちなカシミアを沢山買うというので、カシミア山羊の放牧が盛んとなって砂漠化が進んでいる。実は、このように温暖化の問題は、深く経済と関わりあっている。従って、最終的には、政治的決断で経済を規制し、結果を出すことが重要である。京都議定書の二酸化炭素排出規制がなかなか進展しないのも経済の圧力が強いからである。かって「世界」は、全面核戦争という危機を、政治的決断で乗り切った。同じことが2030年を待たずに為される必要がある。今こそ神社界も「我国」という狭い思考を越えて、「世界」の問題に真正面から取り組んで行くべきである。

 (2006.08.24)

世界