宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

カウボーイブッシュのイラク

2013年1月26日   投稿者:宮司

以下は、平成16年、愛知県神社庁の機関誌「宮柱」の原稿として書いたものです。記事として採用されたかは定かではありません。内容が、今話題になっている憲法の改正に言及しているので、採録しました。(2013.01.26)

 「カウボーイブッシュのイラク」 三輪隆裕

プロ野球ニュースの無い日はあっても、イラクのニュースの無い日は無い昨今です。ブッシュの共和党は、ユダヤ資本による軍産複合体と石油メジャーを背景にした政党ですから、イラク戦争は3つの目的からなっていました。イスラエルの応援、米軍兵器の在庫一掃、そして埋蔵量世界一といわれるイラクの石油利権の確保です。しかし一方、本音は別として、典型的なアメリカ人のブッシュは、正義のカウボーイ、ローンレンジャー気取りで、「サダム・フセインの圧政からイラク国民を解放し、自由と民主主義、人権重視の国家を作るのだ」ということを旗印として攻め込んだことはご承知の通りです。

 どこかで似たようなことを聞いたことはありませんか?「ファシズムの抑圧から日本国民を解放し、自由と民主主義、人権重視の国家を作るのだ」といったのはルーズベルトでした。ブッシュは日本に自由と民主主義を植え付けたのと同じ発想で、イラクに攻め込んだのです。しかし、事情は随分違いました。第一に大東亜戦争後の日本には、一緒になってアメリカに抵抗してくれる友邦国、あるいは味方の人々はいませんでした。イラクにはイスラム過激派はもとよりイスラム諸国も裏側で手を貸しているようです。第二に、日本の戦後は冷戦の真直中へ放り込まれていきました。その為にアメリカの力を利用して共産主義に対抗しようとする考えが、日本の支配層に存在しました。現在冷戦は終了し、アメリカの一極支配が世界を貫こうとしています。第三に、これは神社界にとって大切な点ですが、アメリカが皇室を温存し、その求心力を新国家日本の安定に利用しようとしたことです。イラクでは、アメリカは民主主義にこだわり、最も求心力のあるイスラム教を無視しています。ビンラディンはアフガニスタンにおける対ソ連抵抗勢力としてアメリカが育てたのですが、彼が何故アメリカを襲う気になったか?それは、サウジアラビアのイスラムの聖地メッカで米軍の女性兵士が腕もあらわに闊歩している姿を見て立腹したからだという話が大真面目に語られるほど、イスラムの戒律は大切なのです。

 戦後の日本の骨格を決めたのは日本国憲法と教育基本法、そして神社界にとっては悪夢のような神道指令です。神道指令の廃棄による神社の脱宗教化はさておき、日本国憲法と教育基本法の内容は見直しの機運が高まっており、十年以内に改正されるでしょう。神社界の期待する「神道を国政の基本に」、「肇国の理想を現実化した国体を」といった内容になるかどうかは別にして・・・・。

 いずれにしても、今と比べて、日本の文化伝統を重視した内容になることは間違いありません。自由と民主主義を止めることは無いようですが。

 さて、小泉首相はカウボーイブッシュと随分仲が良いようです。自衛隊は「イラクに自由で民主的な社会を実現し、人々が幸福で安定した生活をおくることができるように」活動しています。

 しかし、本当にイラクの人々がそう願っていると思いますか?

 戦後の日本が止む無くアメリカの正義と価値観を受け入れ、今、漸く、それを見直そうとしているように、イラクの人々も一旦アメリカを受け入れたとしても、将来はそれを否定するでしょう。

 六十余州に分かれていた日本が、近代国家になることによって安定した社会が生まれたように、将来の地球は、それぞれの地域性は保ちながらも、同一の理念や経済システム、司法制度や警察力によって安定した社会を作り出すことは間違いないでしょうが、今、カウボーイブッシュがそれを実現する思想と品格を持っているとは思えません。

 人類は、そして生命は多様なものです。それぞれの個性や独自性を尊重しながら、ゆるやかな連携を作り出していくことが必要です。現実にエルサレムで、宗教者の小さなサークルが生まれ、日々話し合いが行われています。イスラムの大学で教鞭を執るユダヤ人、キリスト教の教会に出入りするアラブ人、そういった人々が相互理解や信頼の醸成を図っています。平和は、人々の地道な努力から生まれるのであって、豊かな資本や軍事力をバックに口先だけの理想を掲げて、その実、自派の利益や欲望を追求する政治指導者の行動から生まれるものではありません。「アメリカの正義」に騙されてはいけません。日本の文化、その個性を大切にして、単純なアメリカ化を防がなければなりません。小泉さん、しっかりしてくださいよ。

(H16.6.27)

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