宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

憲法改正は不必要

2021年5月3日   投稿者:宮司

 最近、毎日新聞による憲法改正についての意識調査が行われた。憲法改正に執着していた安倍政権の下では改正に否定的な意見が多かったのだが、現在の、あまり憲法改正に熱心でない管政権の下では、改正賛成の意見が多数となったという。


 これは、中国の軍事的な脅威を煽る人々が多くなり、ユーチューバーや評論家の多くが中国との戦争が不可避であるかのごとき情報を多く発信していることに原因が有ると思われる。


 しかし、戦争遂行のために憲法を改正しようとすることは間違っている。すでに、安倍政権は集団的自衛権を認めたので、防衛的な戦争を遂行できる法的な根拠は存在している。必要なのは、全面的に戦争遂行を可能にするための9条改正ではなく、戦争行為の折の様々な細かな問題点について国際法に照らしつつ、矛盾や対応不能な状況が生じないように法律の整備をすることである。これは喫緊のことだ。安倍政権も、集団的自衛権を認めることで、米軍との協力関係の大枠が定まったので、最後に憲法改正運動が腰砕けとなったのだ。
 実は、第二次世界大戦の前の状況と比べると、国際法が随分と整備され、戦争遂行には、それを遵守して行うことが必要となっている。もし逸脱すれば、戦争終了後に国際世論の手厳しい批判を受け、場合によってはペナルティも課される。今では、戦争なら何をしても良いというわけではないのだ。
 また、全面戦争となっても、核兵器など使うことはできない。相互確証破壊戦略の存在もさることながら、核兵器禁止条約が多くの国々によって批准されており、核兵器を使えば、戦争後は地球破壊の張本人として全世界から糾弾されてしまう。恐らく、戦争は生起しても1週間も経たぬ内に終了となり、中国が勝利することは決してない。なぜなら、中国経済の興隆は世界経済との連携に深く依存しており、武力で世界経済とのリンクを破壊したら中国の生きる道を閉ざすこととなるからである。中国はいくら軍事力を整備しても、覇権国家となることはできない。世界を覇権によって統一することができるような時代ではない。現代は人類全体の経済成長のために共存が不可欠な時代となったのだ。

 憲法改正をしてはならない理由について述べる。自民党の憲法改正草案は、大きく分けて二つの狙いがある。一つは日本を戦争ができる国とすることである。現在は防衛のための戦争のみが許されているが、これを自由に戦争ができる国としようとすることだ。無意味なことだ。一体、防衛以外に日本が戦争をする必要があるのか?時代錯誤も甚だしい。

 もう一つは、日本を非民主的な国とすることである。つまり、国民主権と基本的人権の否定である。このような憲法を持つ国は、民主主義国とは言わない。簡単に言えば、専制主義または全体主義の国家だ。自民党の保守勢力は、戦前の大日本帝国へのノスタルジアが強く、儒教的な専制国家の再現を夢見ているのだ。こうなると、日本は最早民主主義の欧米のグループには入れない。喜んで待ち受けいているのは中国や北朝鮮だ。しかしもちろんそのグループに入ることはない。日本は孤立するであろう。それこそ日本の滅亡となる。このような考えは行き過ぎという意見もあろう。自民党の憲法改正草案を新憲法としても、日本は民主主義のグループに入ることができると考えている人々も多かろう。しかし、それは甘い。現在の日本の民主主義の程度をご存知であろうか? 英国の研究所による国別の民主主義指数では、日本は世界21位、韓国やチリより下である。要するに、日本人は民主主義というものがわかっていないのだ。

 原因は、戦後教育にある。民主主義の憲法を持ってはみたが、題目を唱えるだけで、基礎教養がないところに加え、共産主義が野放しとなり(実は、共産主義は戦前の体制と親和性が強かった。なぜなら共に全体主義だから)、日教組は共産主義を礼賛し、かたや保守主義者は天皇制に基づく全体主義を復興させようとした。結局、日本人には民主主義は根付いていない。憲法改正はしても良い。しかし、政治家を始め多くの日本人が、自由と民主主義や人権の尊重の概念を本当に理解できてから行うのが良い。つまり、日本国憲法の価値は、日本人の教養の程度よりはるかに高く、世界の共通価値である自由と民主主義、市場経済と人権の尊重に重きを置いており、それがあるからこそ、民主主義のグループに入っていることができるのだ。

 米国のバイデン政権は、世界を専制主義のグループと民主主義のグループに分けて、その対立の図式を作ろうとしている。日本もこれに協力し、世界から専制主義の芽を潰し、民主主義に基づいた世界連邦の実現を遥かに見据えていかなければならない。 (2021/05/03)
 

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