宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

米国民主党左派について

2020年11月15日   投稿者:宮司

 アメリカの大統領選挙が民主党のバイデン候補の勝利に終わろうとしているなかで、日米の一般の識者や人々のコメントの多くが、民主党の左派と言われるバーニー・サンダースの政策を社会主義的あるいは共産主義的であるとして、中国と同列のように批判している。

 これは決定的に間違っている。
 サンダースは自身を民主社会主義者と呼び、民主社会主義(Democratic Socialism)を政策としている。民主社会主義は、通常、社会主義と民主主義の両方を支持する政治哲学であり、社会主義への漸進的、平和的な移行を求め、共産党独裁のような権威主義を否定するとされる。

 しかし、サンダースの主張を見れば、彼は、社会主義への移行を求めていない。資本主義を肯定し、生産手段の共有を否定している。よって、強いて例を挙げるならば、北欧型の大きな政府で、税収を元手に福祉と医療保険と教育を充実させ、労働者貧困層やマイノリティーの救済を柱とする、資本主義の改良型社会を目指していると考えて良い。新自由主義やグローバリズムに反して、自国産業の育成と保護を中心とする労働者の地位の向上を目指してもいる。つまり、自由と平等の両立を図る改良型資本主義を志向しているのだ。EUの多くの国々と同じように。

 Wikipediaにも以下のように記される。「サンダースの政治哲学を<福祉国家主義>と評価する者もいるし、<社会民主主義>と評価する者もいるが、<私有財産を剥奪しての社会主義社会>として定義される民主社会主義とは評価されていない。」もちろん彼はマルクス主義者ではない。

 私の米国の友人たちは全て民主党支持であるが、そのほとんどがサンダースの政策を支持している。そして中国の権威主義の政治や人権無視の政策に強烈な反感を持っている。なお、サンダースは民主党員ではない。彼は上院議員であるが、無所属であり、2020年の調査では民主党支持者と無党派層の27%の支持を得ている。

 中国は、共産党独裁という権威主義の国家である。かつてマルクスは初期資本主義社会における労働者の悲惨な状況を目の当たりにして、生産手段の社会的所有による労働者階級のみの平等な社会を夢見たが、結果は、共産党官僚や行政官僚という特権階級を生み、その理想は潰えた。そして中国は経済的な枠組みとしては共産主義を捨てて、市場主義、つまり資本主義を取り入れて、現在のような姿となった。つまり国家が主導する資本主義、一党独裁型の権威主義に基づく資本主義というのが中国の実態であり、社会主義や共産主義の国家とは言えない。それらの言葉は、特権階級の独裁を覆い隠す手段として使用されている。また、中国の経済は、グローバル化に深く依存しており、貧富の差が激しい。

 中国は政治的な枠組みとして、共産党の独裁を捨てて、民主的なシステムを導入するべきだ。それが、近代化の最終段階となる。それが可能となるように世界は中国を批判し続けなければならない。覇権主義の野望を許してはならない。

 社会主義や共産主義の思想に晒された初期資本主義社会は、古典的な自由放任主義を捨てて、一定の労働者の権利を認め、政府が市場に介入し、景気変動を抑え経済成長を促す修正型の資本主義に変化した。その後、ヨーロッパの国々は福祉国家的な中産階級を重視する社会制度を目指し、米国や日本は、新自由主義に基づく経済成長とグローバル化を目指した。サンダースの発想は、今に始まったものではない。もともと、経済行為の自由を過度に許容すれば貧富の差が広がり、それを税収に基づく所得の再分配機能、社会保障や補助金で解消し、バランスをとっていくのが、資本主義の強さなのだ。

 自由世界の人々は、米国型民主主義の限界が見えたなどと言って、権威主義を志向してはいけない。トランプ主義は異論を認めない全体主義に通じる。民主主義を捨ててそのような道に進んではならない。現代のようなグローバル化によって国家が希薄となった時代、個々人は私利私欲をむき出しにして自分の利益のみを基準にして政治的なリーダーを選びがちであるが、そうしてはならない。個々人の良識、モラル、社会意識を高めることにより、正確な判断を行い、民主主義と資本主義の健全な発展を志向しなければならない。
 
(2020/11/15)
 

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