宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

貨幣論と経済政策

2020年9月5日   投稿者:宮司

貨幣論と経済政策

 経済学は門外漢であるが、ネット上のデータを拾いつつ、これからの資本主義経済のあり方を考えてみる。

 マルクスが貨幣論において、人類の共同性が貨幣に疎外(物象化)されているといったとき、いかにして人類の共同性を貨幣から人間意識に取り戻し、自覚化していくかという永遠の命題が提起された。

 彼は共産主義の社会を実現し、生産手段を共有し、資本に対する生産関係を一律の形にすれば解決すると考えたが、間違いであった。共産党員や官僚という指導者層が貨幣物神の虜となり、著しい社会格差を生じさせたのである。それに加え、計画経済は人類の本性に沿っておらず、生産力は伸び悩み、結局、共産(社会)主義計画経済は失敗した。もともと、古典経済学より取り入れた労働価値説そのものが間違っていたので、価格設定や賃金設定において破綻したのだ。

 マーシャル以来、需要と供給のバランスにより価格が設定されるという近代経済学の基本が成立し、それが現在まで続いている。

 貨幣を考える上で、最も重要な転換点は、ニクソンが1971年に行った金・ドル交換停止措置である。米ドルは最後の兌換紙幣であった。それ以来、世界経済は、貨幣を発行する国の経済力の信用をベースとして、交換価値が維持されるようになった。これには長所と短所がある。長所は、信用が担保されれば、いくらでも紙切れの紙幣を発行できるので、世界経済や国家経済がいかに膨張しようとも、それを支える量の貨幣を発行することができるという点である。現在の日銀の異次元の金融緩和やFRBの際限のないドル紙幣の発行はこの事実に支えられている。

 では、信用の担保はいかにして得られるのか?それは、それぞれの貨幣を発行している国家の安全性である。すなわち経済的に破綻をしないであろうという信用である。

 日本の場合を考えてみよう。日本の政府と地方公共団体の債務残高はざっと1100兆円、GDPの2倍である。一見すると経済破たんが目前のようであり、財政再建が声高に叫ばれるのはここに起因する。しかし、これは、政府の借金である。日本全体で見てみよう。日本の全体の金融資産は、平成28年末で、7,495.1兆円、負債残高(国債、地方債を含む)は7,146兆円、349.1兆円の黒字である。また、対外資産勘定は、たまたま同額の349.1兆円の黒字であった。日本全体の経済力を表す国富という点では、さらに非金融資産勘定を加えなければならないので、3,350.7兆円となる。つまり、借金大国どころか、経済的に優良国家なのだ。これが円貨幣の信用を裏打ちしている。政府は、国債を湯水のように発行しているが、これを購入しているのは、ほとんどが国内の銀行、個人、その他の投資家である。令和2年の国債保有者別では、海外の保有者は12.9%である。もし、これが90%以上であれば、売り浴びせられて信用が崩壊する危険が伴う。国家の債務危機はそういう場合に訪れる。
 
 さて、次に米国を見てみよう。なかなか資料が見当たらないが、2008年の国連の統計では、米国の国富は117.8兆ドル、日本は55.1兆ドル、中国は20兆ドル(2016年の中国政府発表の数字は60兆ドル)である。つまり米国は日本の2.13倍である。また、年度は異なるが、2018年の対外資産勘定は、日本が328.4兆円の黒字、これに対し、米国は890兆円ほどの赤字である。これは何を意味するか?国富については、米国は世界一であり、その経済力は米ドルに十分な信用を与えている。対外資産勘定の大幅の赤字は、日本や中国やドイツが、貿易収支で得た黒字利益を米国財務省証券、すなわち米国債で保有しているからである。これが外貨準備高と言われるドル建て資産の実質である。

 ところで、本ブログ中の「中国共産党の行く末」でも述べたように、米国は、いざとなれば他国が保有している米国債を無価値なものとして売却を阻止する法律を持っている。したがって、如何に対外資産勘定が赤字であっても、売り浴びせられる心配はない。この米国債は記名証券とか実態のあるものではなく、単にコンピューター上で登録されているだけのものであり、FRBはいかようにも対処できる。普通に現金化を要求された場合は、米ドルを印刷して渡せば良い。これが、基軸通貨としての米ドルの強みである。つまり、世界経済がいくら膨張しても、それに見合った量の通貨を供給できるわけだ。この信用通貨制で世界経済は無限に拡大することができる。マネーフローの調節により経済をコントロールしようとするマネタリズム経済学は、この結果生まれた。最近のMMT(Modern Monetary Theory)理論もこの信用通貨制を前提としている。

 次に短所について述べる。20世紀末、アメリカのレーガンとイギリスのサッチャーは、新たな経済市場の開発を目的として、金融経済を投機の対象として世界的に自由化することに舵を切った。本来、金融経済は、実体経済の取引のリスクを軽減し、あるいは投資資金の募集を容易にするための手段として作り出されたものであったが、投機のための市場として再編成されることとなった。現在では、実体経済の数十倍、数百倍の取引が行われ、時には、一国の経済を破綻させる力を持つようになった。経済のグローバル化は、本来、実体経済の拡大によって、生産を豊富化し、人類を強固に結びつけ、地球社会の実現のための環境を準備するためのものであった。しかし、金融経済の肥大化は、実体経済や生産力の拡大とは無関係に金銭の取引を極大化し、コンピューターにしがみつくだけで巨万の富を操り、時には実体経済の危機を作り出すという人々を生み出した。この金融投機経済は、信用貨幣の存在によって作り出すことができた。したがってこの金融経済の無際限な拡大が短所である。これは、もう一度、金融経済を本来の役割に戻し、投機的性格を規制によって抑制することにより、正常化される。それは実体経済の安定と健全な発展のために必要不可欠であると思われる。

 現代日本や米国の経済政策は、ケインズの財政投資による需要喚起を、無意味で政府の財政破綻を伴うものとして否定し、マネタリズムに立脚したサプライサイドの管理に移っている。すなわち、市場のマネーサプライを管理することにより景気の変動を抑え、減税により企業に潤沢な投資資金を確保させ、規制緩和により新規の産業投資を促し、民間の産業育成に期待しようとする。法人や個人の減税を進め投資を期待する手法は、余力資金を手元に置いた法人、個人による金融経済への投資に拍車をかけ、結果として、新規投資による経済循環を生まず、金融経済の肥大化と、わずかな富裕層と大多数の貧乏人という図式を生み出している。さらに経済自由主義と企業利益拡大のために非正規雇用枠を広げ、労働者層を窮乏化させる政策が取られている。経済成長を促し、トリクルダウンにより貧困者層にも経済の果実を分けようとする目論見は失敗し、余剰の資金は金融経済への投機に使用されている。

 これは、是正されなければならない。国債と通貨の発行は極度のインフレを起こさない限り、その国の経済力に見合って拡張できるものであるので、その財源をもとに、例えば日本では、政府が率先して規制緩和と新規の技術開発への投資を行うとともに、若い外国人人材を国民の一割程度受け入れ、労働人口の年齢アンバランスを是正し、経済の成長活力を取り戻すとともに、得られた税収を適切に再分配し、国民の貧富の差を縮める方向で調整しなければならない。

 現代の資本主義市場経済の最大の課題は、経済活動の自由とそれによって生じる貧富の差の解消をどのように両立するかということだ。

 人間は能力に応じて働き、収入を得る。能力は差別化されているので、人々に経済活動の自由を保証すれば、必ず貧富の差が生じる。しかし、人権の平等を保証する政治の力で、その差を埋めていく。その永遠の繰り返しが必要なのだ。

 その中で、人々は自分たちの意識を磨き、ミルズのいう社会学的想像力を働かせ、生産活動の中に埋もれた人類の共存の意味を知り、幸福感は貨幣物神ではなく、小共同体や自然との共存の中にあることを学び、平和で豊かな社会を実現していくであろう。                (2020/09/05)
 

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