宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

安倍政権の終焉

2020年9月1日   投稿者:宮司

 ようやく第二次安倍政権が終焉した。この政権の評価は様々で、長所も多々あろうが、最大の失敗は、政治を五十年ほど巻き戻したことだ。

 それはどういう意味か?

 安倍氏は生来嘘をつくのが日常であったようで、この政権は、日常的に嘘と欺瞞に満ちていた。それを糊塗するために、マスコミを籠絡し、また影の宣伝部隊を用意し、世間に政権支持の評論やツイッターを溢れさせ、世論を誘導し、政権の評価を高め、長期にわたって君臨し続けた。官僚やマスコミはその忖度に明け暮れ、正論を吐く人々は遠ざけられた。

 この状態は企業や街中の組織にも伝播し、十年前には日本社会にようやく根付きかけていた法令遵守、コンプライアンスという言葉と概念を消滅させた。初期に高らかに歌い上げた『美しい日本』に象徴される社会は、すなわち、教育勅語の世界であり、それは、法令を無視して友達や家族のために尽くす儒教的な世界観を随所に作り出した。その典型が、森友学園、加計学園、桜を見る会等の問題である。それは、敗戦後、民主主義国家として再出発をしたばかりの頃の日本の道徳観に戻ったことを意味する。

 日本はもう一度、1970年代あたりからやり直して、民主的な法治社会を再構築しなければならない。それは現在、民主主義国家としての日本の成熟度がOECD加盟の先進国中の最底辺に位置していることでも明らかである。

 後継政権の課題は重い。兎にも角にも次の首相には嘘をつかないことを期待したい。政治の世界であるから、黒を灰色ということは許される。説明をはぐらかしても良い。しかし、声高に白であると主張し、それをそのように見せるために官僚が忖度の限りを尽くし、文書を隠蔽し、改ざんし、嘘をつくことは許されてはならない。その功績で何がしかの地位や金銭を得るとしたら最早明治の世界だ。経済だけ近代化して、社会意識が前近代であれば、中国共産党に支配されている中国と変わるところはない。したがって、官僚の責任も重い。これからは官邸主導であっても、毅然として、思うところの意見を述べ、公務のルールは頑なに守ってほしい。

 ちなみに安倍氏と仲の良いトランプ氏も同様に米国史を五十年ほど巻き戻している。彼の退陣は不確定であるが、退陣させなければ、世界の歴史が巻き戻るかもしれない。彼も息を吐くように嘘をつくと言われる。そして、米国を人種差別と人権抑圧に満ちた分断国家に戻そうとしている。キング牧師やマルコムXの犠牲によって得られた米国の融和と民主主義は消滅の危機にある。

 安倍政権もトランプ政権もポピュリズムの生み出したものだ。これは、民主主義という政治社会の本質的なリスク要因である。これから逃れるには、個々人の社会意識を高め、より広い目で社会を見渡し政治行動を行う人々を多数派とすることが肝要となる。遠回りのようであるが、他に道はない。個々人を基礎として社会を構成するということは、個々人の出来が社会の進歩を左右するということだ。民主主義を否定し、強いリーダーに社会を委ねようとすれば権威主義から全体主義を生み出す。決してその方向に進んではいけない。個々の意識を高め、人間性を磨くことが、民主主義を通じて良い社会を生み出していく。社会科教育の重要性がここに存在する。         (2020/09/01)

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