宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

正しい自由主義

2020年6月8日   投稿者:宮司


 ジョージ・フロイド氏が警察官に殺害されたことに抗議する米国の民衆のデモは、全米、全世界に拡大している。

 トランプ大統領は、デモの一部が略奪、暴行を始めたことを批判し、秩序を保つために連邦軍の投入も辞さない構えを見せた。歴史上、連邦軍が国民に対する武力として使用されたことはない。ただ一つ、1962年に黒人学生の大学入学に反対するアラバマ州知事が州兵を動員してこれを阻止しようとしたことに対し、ケネディがその州兵を連邦軍に組み入れ、連邦軍の力を以って黒人の大学生を入学させたという例外があるだけである。州警察と州兵による保安を主張する世論によりトランプはたちまち窮地に立たされ、前言の撤回を余儀なくされた。

 中国は、米国のデモの拡大を冷ややかに眺め、自国の秩序の安定を誇っているように見える。しかし、先般の全人代で、香港の自由主義を守るためのデモを拡大させないために国家安全法の香港への適用を定めた行為は、自由主義に対する共産党政権の恐怖を如実に表している。2015年に中国で制定された国家安全法とは、いわば戦前の日本の治安維持法と同じようなものだ。秩序の維持や安定を志向する人々は、イデオロギーの如何を問わず、常にこのような法律を欲する。安倍政権が共謀罪法を成立させたのもこの理由による。

 しかし、自由主義の眼目は、常に反論を許容し、対立する議論の結果により、社会を改善していこうとするものだ。したがって安定より不安定、秩序より対立を必要とし、その結果としてより優れた安定を得ようとするものだ。これが自由主義の根本である。社会動態の弁証法である。

 中国は、遠からず、経済の成熟とともに民衆の意識が高まり、個人化された国民が自由主義を志向し、共産党政権は内部から崩壊するであろう。香港が中国を変えるのだ。

 実は、米国でトランプが大統領となったのは、米国社会の矛盾と対立がたまたま出した結果であって、このように、場合によっては自由主義の結果が悪い方向に転がることもありうる。人々は学んでそれを是正するのだ。これが米国の、いや自由主義の底力である。

 トランプは、米国と世界に分断と対立をもたらした。このように書くと、分断と対立こそが、社会の改善につながるのではないかという反論が予想される。しかしそれは間違っている。自由主義の中で許容される議論や対立は第3の道を見つけて収斂されるものである。これに反し、トランプの主張する分断と対立は、決定的なもので、それは一方の意見の絶対的な正当性を主張するものだからである。この絶対性という点では、共産主義やイスラム原理主義などの主張と同じ類のものだ。ただ、彼は経済人であったから、貿易戦争のような経済問題については、取引によって第3の落とし所を見つけるという技術に長けていた。主張や外交がディールの範囲に収まっている場合は落着点があり、見守ることができた。

 しかし今回の人種差別のような問題では、彼の信念体系が直接現れ、妥協の道がないような結果をもたらすこととなる。彼は、就任当初から、自分の堅固な支持基盤である白人低所得層の歓心を買うために、必要以上にヒスパニックや黒人への差別的な言動を行った。したがってこれまで米国で積み重ねられてきた公民権運動の成果が薄れ、米国の分裂が生まれた。

 これはそろそろ是正される時が近づいている。日本ではあまり話題にならないようであるが、11月の米国大統領選挙では、必ずトランプは敗北する。私の米国の友人たちは、ほとんどが次期大統領にサンダースを推していたが、結局民主党候補はバイデンに落ち着いた。サンダースの積極的な政策はある程度引き継がれるであろう。Without justice, there is no peace. である。

 中国共産党支持派にしろ、トランプ支持派にしろ、安倍政権支持派にしろ、同根であるのは、社会の安定ないし秩序の維持を最大限に主張することであり、それは固定的な階層の利益を原理的に認めることにつながる。すなわち健全な自由主義の抑圧である。

 人類の特徴的な性質は、自らの思考の中で生まれる矛盾と対立を進歩のエネルギーとして、環境を変え続けていくことだ。この意味では、安定志向より、自由主義が正しい選択となる。

 日本人もそろそろ正しい自由主義の道へ舵を切り替える時ではないだろうか?

(2020/06/08)

世界-日本