宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

日韓問題の解決

2019年11月25日   投稿者:宮司

 日韓問題についてもう一度だけ書いておく。

 日韓関係は、心配していたような展開にならず、日韓の離反を契機とする在韓米軍の撤退ということにはならないようである。まずは、文政権の意図通りにはならなかったので、朝鮮半島をめぐる安保情勢の大規模な変化は起こらないと考えられる。

 しかし、疑問が一つ残った。日韓の離反を導こうとする勢力は、朝鮮民族の統一に執心する文在寅とその取り巻きのみであると考えていたが、どうもそうではなさそうである。

 この日韓のこじれの発火点は、徴用工の補償を日本企業に求める韓国大法院の判決である。安倍首相は、常にこの問題は1965年の日韓請求権協定で解決済の問題であるとの一点張りである。したがってこの請求は国際法違反であり、その対応は韓国政府が行うべきであると主張される。ご本人は本当にそれを信じているように見える。

 よく調べてみると、1966年に国連人権規約が改定され、公的な部分で請求権が消滅しても、個人の私的な請求権は消滅しない、との決定がなされ、日本も1977年にこれを批准している。また、そのこととは別に、日本の国会において、1991年の柳井条約局長の答弁は、個人請求権は消滅していないが、国家間の請求権協定が妥結しているので、(韓国の)外交保護権の行使として相手国(日本)に請求することはできないというものであった。次に、2007年の西松建設中国人強制労働従事者補償裁判での最高裁の判決は、個人請求権は消滅していないのだが、裁判で訴えることはできないので、自力救済せよというものであった。上述の国連憲章の批准を踏まえたもので、妥当な判断であると言える。その後、西松建設は、強制労働をさせた中国人183人に対して1億2800万円を和解金として中国の民間団体に支払い謝罪した。

 その一方、サンフランシスコ条約において、日本は米国に対し、戦争被害の請求権を放棄し、個人請求権についてもこれを取り上げていない。したがって韓国に対しても同様な論理で、いかなる形態でも個人請求権の行使は認めないという態度で臨んでいるとも解釈できる。

 一方、2014年、三菱マテリアル(旧、三菱鉱業)は、中国人強制労働従事者が中国で訴訟を提起してから2年後に、3765人に1人当り10万中国元(約160万円)を支給する和解措置を発表した。

 巷では、舛添要一氏や橋下徹氏も個人請求権は存在しているという点を指摘している。しかし、個人請求権の補償について、国家が対応することはできない。

 韓国の言い分としては、米国と日本の関係ではなく、36年間植民地支配してきた日本と支配を受けてきた韓国との関係であるから、何らかの形で個人請求権に対応してほしいということであろう。しかしまた、この要求に対しても、韓国人徴用工は国家総動員法によって就労させられたのであり、それは当時の朝鮮人が日本国民であったので、強制には当たらないという反論もあり、また、日本は朝鮮を収奪するのではなく、朝鮮の発展の道を広げ、近代化を応援したのであって、感謝されるべき統治であったとの反論も可能である。ここではまた、歴史認識の違いに戻ってしまう。解決のためには、政治的な調整を行うか、歴史認識の見直しを行うかいずれかであろう。

 しかし、こういった問題を細かく取り上げて報道するマスコミは皆無であり、政治家たちも首相答弁に従い、ほとんどの日本人が一方的に韓国の主張が間違っていると考えている。これはどういうことか? 

 もう一つ、以前にも書いたが、韓国にGSOMIAの破棄を提起させた、日本の韓国に対する輸出規制は、特別一般包括という輸出承認の制度を使えば実害は無いという。「8月7日付けの包括許可取扱要領改正について」というCISTEC事務局の発表資料はその事実を示している。しかし、日本側が韓国にそれを具体的に説明した形跡は無い。これはどういうことか?

 素直に考えれば、日本の官僚の中に、日韓を断絶させたいという勢力が存在し、陰で首相やその関係者を誤認に導いているということだ。あるいは、首相を中心に政治家と官僚の全体で韓国をいじめているということだ。韓国の歴史修正主義が気に入らないので、断交も辞せずと高圧的に出たということだ。しかし、このようなことを続けていれば、結局、韓国を北朝鮮の方へ追いやり、朝鮮半島の安保情勢を危険な方向に向かわせることとなる。

 今回は、朝鮮半島の安保情勢の変化を望まない米国の意向が強く働いて事なきを得たが、文政権が続く限り、同様の問題が出来し、朝鮮半島は不安定となるであろう。これを解消するには、朝鮮民族の統一より韓国の繁栄と安定を優先する政権が韓国に誕生し、徴用工の補償については日韓両国が率直に協議し、国家を外した枠組みで解決を図ることが必要であろう。それを通して、韓国も日本も近現代史の歴史認識を共有できるような実証的な共同研究が始まり、共通の東アジア史の歴史教科書を完成させることを望みたい。
2019/11/25

世界-日本