宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

その後のトランプ、その後の改憲、EUの今後

2017年5月6日   投稿者:宮司

 米国のトランプ政権が発足して3ヶ月が経過した。どうやら、彼は変節した。いや、変節せざるをえないようだ。彼の選挙期間中の公約は、ほとんど、米国の民主主義、三権分立の前に封じ込められてしまった。

 メキシコとの国境に壁を作る政策は、議会の承認を得られなかった。イスラム諸国からの入国者の制限は、裁判所によって憲法違反と判断された。壮大な規模の軍備の拡張も、議会は承認しないであろう。ことごとく、大統領令は、否定されている。唯一の公約の実現は、TPPへの不参加である。しかし、これとても、対日本、対中国の二国間による地道な交渉を通じて、貿易の不均衡を是正することになる。一方的な関税障壁の実現や為替のコントロールはできそうもない。一番心配した、国際政治の不干渉主義は、むしろ逆の、シリアへの、毒ガス使用に対する制裁としての巡航ミサイルの攻撃、北朝鮮の核ミサイル開発に対する大規模な武力威嚇となり、米国民の賛同を得た。韓国や日本からの米軍の撤退もなさそうである。一安心というところか。
 トランプは、相変わらず派手なパフォーマンスを見せることであろうが、政策の基本は、共和党の政策のプロによって手堅く作られていく。国内では、反トランプのデモが相次ぎ、自前の過激な政策は全く実現できないと思われる。このようにして、四年間が過ぎていくであろう。まさしく、米国民主主義の勝利である。もともと、米国は、問題点も数多いが、基本としては、将来の世界の有り様を先取りしたシステムだ。今回は、三権分立に基づく立憲政治が正常に機能しているので、ますますその感を強くする。

 さて、日本ではどうか?この5月3日の憲法記念日に、安倍首相は、2020年を目処に、憲法9条に自衛隊を明記する条文を付け加えるという、改憲の方向性を明示した。総理大臣が改憲の具体的な日程と内容について一方的に言及するという問題の是非はともかく、この内容であるならば、まことに結構なことだ。もともと、改憲の問題点は、憲法9条ではなく、日本の民主主義を潰す目的で企図された、自民党憲法草案の、(1)第24条の家族条項を新設して、家族主義的国家観に道を開くこと、(2)第13条の「個人」を「人」と表記して基本的人権の意識を薄めようとすること、(3)第98条と第99条に新設する緊急事態条項によって、立憲主義を封じ込めることにあるのだから、その3点をいじらないのであれば、賛成である。もちろん、不戦の誓いともいうべき第9条1項と2項を残すのであるから、一見、憲法の中に大きな矛盾を抱えることとなる。しかし、大凡の法曹界の意見として、交戦権の放棄は、自衛権の放棄を含まないのであるから、自衛の範囲としての軍隊の保持は明記されて良い。さらに言えば、戦後誠に便利なお守りであった憲法9条を、安保法制の制定により実質的に捨ててしまったのであるから、交戦権を持つ軍隊を持っても良い。また、軍隊と交戦権を憲法に明記するのであるから、国際法に合わせた各種の法整備が必要となる。そしてその軍隊は、完全な民主主義のもとで、文民政治家によってコントロールされ、その軍事力を世界の平和の実現のために国連の指示により使用するものでなければならない。
 現在の日本で、一番懸念されることは、民主主義を敵視する政権のもとで軍事力が整備され、世界の共通価値ともなった民主主義と市場経済を潰す目的で使用されることだ。
 安倍政権の昨年から今日までの動きを見ると、閣議決定の連続で、社会をコントロールしているように見える。森友学園の問題は相変わらず不分明であり、教育勅語や銃剣道、道義国家や国体といったおよそ民主主義とは相容れない時代錯誤の言葉が閣僚の間でもてはやされ、平成の治安維持法ともいうべき共謀罪(テロ等準備罪)の成立が指呼の間であることを思うと、安倍政権が自由と民主主義を守るどころか、これを潰すことに執着していることが明白である。
 すでに日本では、三権分立が機能していないことは、内閣の閣議決定なる法制度的には何の根拠のないものを頻発して、世論誘導し、政治を動かそうという政権の手法に現れている。また、最近コンプライアンス(法令遵守)という言葉が、マスコミで聞かれなくなった。民主主義の基本である概念の喪失は、最早日本では、民主主義が死にかけていることを示している。
 従って、安倍首相の言う改憲が、本当に憲法9条への自衛隊の付加のみであるかどうかを慎重にチェックし、共謀罪の成立に反対し、一旦成立したならば、次期政権でこれを排除する方向で国民運動を進めるべきである。
 神社本庁や日本会議のイデオローグの本音は、日本を、非民主的な全体主義と管理経済の国家に変えるというものである。その準備段階として、盛んに家族を大切にすることや、個人意識は社会の敵であることや、法律で政府を縛る立憲主義は日本に馴染まないといったことを宣伝しているのである。将来そのような国家が実現したならば、世界から敵視され、日本は再び無謀な戦争に突入し、第二の敗戦の憂き目をみることになるであろう。

 英国で実現したEUからの離脱は、その後、各国に飛び火し、EUの崩壊も心配されたが、オーストリアの選挙結果やフランスの選挙情勢を見ると、とりあえずその心配は去ったようである。
 一国の国内で、窮乏地域と富裕地域があれば、様々な社会システムを通して、富裕地域と窮乏地域の均衡が模索されるように、EUのような経済共同体では、富裕な国は貧乏な国のために我慢をしなければならない。それが嫌なら離脱となるが、それは、EUとしての経済的な利益や強みをも放棄することとなる。
 現在、貿易に使われる世界通貨は、USドル、もしくはEUROである。元や円は、世界通貨ではない。念のために記すが、金は世界の共通価値ではないし、通貨の信用を維持する物質ではない。現在の世界経済は、経済力という信用で裏打ちされた通貨によって動いている。EUROは、ヨーロッパ連合という面の大きさと多様性から、信用を持たれている。こういった経済力の強い国家間では、その経済的な結びつきの強さから、戦争は起こりえない。EUは、米国と同様、将来の世界像のモデルとして確固たる地位を示していくであろう。
 もちろん安倍政権の影の人々が夢想するように、民主主義と市場経済を放棄したならば、このような結びつきはなくなるので、戦争が起きる可能性がある。
 ともかく、ポピュリズムの人々は、目先の利害に敏感で、将来にわたっての世界の展望を持っていない。一部の人間とは永遠に分かり合えないと断定するのは、ポピュリズムの愚劣の真骨頂である。世界の人々が、人類が滅びることなく豊かに幸福感を持って共存するために、過去の何千年間にわたって如何に努力を積み重ねてきたかを理解しようとしていない。人類は何よりも、この点で、意識改革を必要としている。
 日本の教育の無償化が話題となっているようであるが、問題は、教育の内容である。日本の将来を考えるならば、世界とことを構えないように、世界の共通価値である、基本的人権や民主主義、立憲主義や自由主義、個人意識の確立や平等意識、市場経済や資本主義の効用性を子供達に理解させる教育を行うべきだ。今のままでは、独りよがりな「美しい国、日本」を賛美し、世界を敵に回すような国民性が作られていく。     (2017/05/06)

世界-日本