宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

パリのテロ

2015年11月18日   投稿者:宮司

 パリのテロ

 パリのイスラム原理主義者によるテロ行為は、世界を震撼させた。
思い起こせば、2001年9月11日の米国の貿易センンタービルへのイスラム原理主義者たちの同時多発テロ攻撃が、21世紀の原理主義対自由主義の戦いの始まりであった。先進国の指導者たちは異口同音に、「テロには屈しない。犯罪として処罰する。」という。我が国の首相も例外ではない。彼は、自らイスラム原理主義との戦いに飛び込んで行き、高らかに正義を歌い上げる。

 しかし、本当にイスラム原理主義を力で押さえつけることができるのだろうか?答えは否である。何故なら、彼等の力の源泉は、近代に対する不満であるからだ。過去、近代化という人間社会の根本的な変化に対する前近代の意識の反逆は、ナチスや日本軍国主義にとどまらず、共産主義を生み、全共闘を生み、カルト宗教を生み、そしてイスラム原理主義を生んだからだ。前近代にノスタルジアを持つすべての人類に、イスラム原理主義に加担する可能性がある。端的に言えば、個人主義が大嫌いで全体主義(権威主義)が大好きな神社本庁もその一つだ。

 では、近代化とは何か?それは、西欧で始まった。宗教改革とルネッサンスを始まりとして、啓蒙思想と市民革命の時代、産業革命を通じて生まれた社会の変化をいう。キリスト教の世界観に染め上げられていた西欧の人々の意識は、宗教改革を通じて相対化され、絶対という概念に疑問を持つようになった。皮肉にもキリスト教によってもたらされた神のもとでの人間の平等という思考は、神の存在が消えることによって自由と平等が人間に天賦のものであるという思想に生まれ変わった。これをもとに啓蒙思想が成立したので、必然的に社会契約と法治の思想が生まれた。このようにして自由主義と民主主義の原型が形成された。産業革命は、それまで戦争の主原因であった財物を、戦争によらず、分業と貿易により大量に獲得し大量に消費することのできるシステムを作り出した。これが資本主義と市場経済である。

 近代化は、17世紀から20世紀にかけて地球規模で広がりを見せたが、しばしばこれに反対する前近代の意識が様々な形態で反逆を企て、その現在の最大のものがイスラム原理主義による自由主義、個人主義、民主主義社会に対する反逆である。

 従って、この反逆を止めるには、この闘争を支えている人々の前近代へのノスタルジアを払拭し、その人々の意識の個人化を進め、社会の近代化をより強く進めることが必要である。
 これらの人々の多くは相対的に物質的に不満足な状態に置かれており、それゆえに特定の共同体への帰属により自己を救済しようとするので、物質的に人々がそれなりに充足する社会を用意することが必要となる。
 また、前近代の情愛に基づいた人間関係は人間の生活の基本であるので、小集団の社会にあっては他者への不信を基礎とする民主的な関係によらず、前近代的な情愛と信頼に基づく人間関係の構築を進め、大集団の社会にあっては民主主義と個人主義に基づく政治形態の構築を進めることが、近代的個人社会の欠点を補い、原理主義を生み出さないことにもなる。
 このような意味での一人一人の教育による意識の啓蒙と成長が21世紀の人類社会が抱えるアポリアを解決する糸口となると、私は考えている。

(2015/11/17)

世界