宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

アベノミクスの功罪

2013年5月18日   投稿者:宮司

アベノミクスの功罪

 2013年5月17日、巷では、安倍首相が提唱した経済政策、通称アベノミクスへの礼賛で持ち切りである。

 今日は、日経平均株価が1万5千円を突破した。今日は、4半期の経済成長率が上がり、日本のGDPは、年間ベースで4兆円増加した。

 中部主要企業の業績は、7割が改善予想。

 このようなニュースが飛び交っている。

 そこで、私は、本日、アベノミクスのからくりを明らかにするとともに、その破綻の心配を書いておきたい。ほとんど誰もこのようなことを述べていないから、経済の門外漢の私が、示しておくことにも意味があろう。

 アベノミクスとは、一言で言えば、グローバルにリンクした世界経済の仕組みを利用した為替の魔術である。

 現在、世界の通貨は、変動相場制で動いており、基本となる価値基準は存在しない。しかし、米ドルが世界貿易の基軸通貨となっているので、米ドルを基準にして考えてみる。

 昨秋、1ドル80円であった円は、現在102円である。これを80円から100円への円安進行と考える。それは、円の価値が25%下がったことを意味する。

 そうすると、日本のGDPが500兆円とするならば、ドル換算で昨秋は62,500億ドルであった。現在の日本の経済水準は、昨秋と比べそんなに変わっていない。そこで、現在のGDPを円換算すれば、625兆円とならなければならい。4兆円あがって喜んでいる場合ではない。実際は、125兆円上がらなければ、同じとは言えないのである。従ってこれから、121兆円分GDPが上がらなければ釣り合いが取れない。企業業績が上昇して当たり前である。これは、収入、支出すべてが、円ベースでは上昇することを意味する。繰り返すが、実質的には経済力が昨秋と変わらない場合である。

 株価を考えてみよう。昨秋8千8百円の株価が1万5千円となった。これは、70%の上昇であり、株価は25%を超えて上昇していることとなる。これは、期待値が実質を上回った結果であり、もう何時下がっても不思議ではない。

 給与はどうか? 昨秋20万円の給与は、25万円にならなければ、釣り合いが取れない。当然、未達成である。物価はどうか? 25%の上昇とはなっていない。しかし、徐々に上昇しつつある。

 以上の思料から明らかなように、アベノミクスで成功しているのは、株価である。これは経済の先行き予想が先行していることを示す。実態経済の指標は、すべて、為替変動に遅れを取っている。

 要するに、アベノミクスとは、為替を円安に誘導することによって生じる経済指標の変化が一律ではなく、タイムラグがあることを利用して、市場に、経済が成長するという錯覚をもたらし、動きを与える魔術である。

 今回の円安の誘導は、意図的なものであり、1ドル80円の円高で、静止してしまったような日本経済に刺激を与えて、これを動かそうとしたものである。

 為替の変動は、経済に動きを与えるが、プラス、マイナス両面に作用し、経済力を強くするものではない。しかし国民は、あたかも、経済が活性化し、株価が上昇し、給与が上昇し、物価が上昇して、経済力の成長が物価上昇以上に国民に利益をもたらすと思い込まされている。

 しかし、GDPが、円ベースで625兆円以上、すなわち25%を超えて経済成長して行かなければ、そのようにはならない。毎年5%の経済成長率を維持したとして、25%を超えるのは5年後である。

 そのような経済成長を実現するためには、日本経済の原動力となる部分を改革して行かなければならない。それは、

 1、世界に先駆けた、科学技術に基づく先端的な産業の実現。

 2、世界に提供出来る、人類の発展に資する技術の開発

 3、日本の技術力の根幹となる中小企業レベルでの先端技術の育成

 このようなことに留意して、根幹の経済力を上げなければならない。

 具体的には、自然エネルギー分野、水資源分野(海水の淡水化)、医療技術分野、ナノテクの応用分野、原子力廃棄物処理分野、食品安全管理分野、等々になろう。これらの開発と応用には、思い切った法改正により、既得権分野の組織を解体し、新しい技術開発に向かわせなければならない。余談であるが、原子力発電はもう古い。もともと潜在的核保有のために国策として行われてきた原発は、処理済みプルトニウム、すなわち核爆弾に転用出来る量が40トンを超えており、もう作る必要はない。全世界を破壊するだけの量を既に保有している。

 経済力の基幹となる技術開発をなおざりにして、一時の株価上昇に浮かれているならば、円安を原因とする物価の上昇がインフレーションを誘発し、利益を人件費に回さず、債務の解消や投資に回す企業態度は、一般の給与所得者を窮地に追い込み、個人消費は減退し、GDPの低下とともに円安が更に進行し、国債は、円安により価値下落し、その金利が上昇し、最後に、海外の機関投資家が、株式市場から撤退し、円を売り込めば、円安,債券安、株安のトリプル安に陥ることとなる。そのままいけば、日本経済の破綻である。

 世界も、日銀も、このような状況を許すわけにはいかないだろうから、ある時期に、円高誘導にシフトするに違いない。そうなれば、株価は急落し、株式に投資していた多くの人々は奈落に落ちるだろう。これは結果的に、円安誘導を契機にした、短期間のバブルということになる。政府はこの間に、権力を固め、消費税を上げ、財政破綻を食い止めようとする。しかし、国民が潤わずに、何が、財政再建か。

 私は、現在の経済政策を一概に否定はしないが、極めて大きなリスクがあることを提示しておきたい。

 政治指導者が、根幹の経済再建に成功して欲しいと思うばかりである。

 おそらく無理であろうが。

(2013/05/17  T.Miwa)

日本-経済