宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

日本と中国の近代化

2013年3月20日   投稿者:宮司

以下は、2006年の8月に中国で行った講演です。地方の政府官僚や、財界人に聞いていただきました。現在、日中関係は悪化の一途をたどっているように見えますが、大きな視野に立って、軋轢を解消したいものです。

日本と中国の近代化

今日は、中国と日本の近代化の問題を中心にお話をします。

 19世紀の日本の近代化の出発点である明治維新の時代、日本人は、押し寄せてくる、近代化を先に済ませた欧米の科学技術に目を見張り、彼等の植民地にされないためには、それを学ばねばならないことを知りました。しかし、古代以来、中国や朝鮮から様々な文化を輸入してきた日本の心はアジアの心でした。いつかは欧米を屈服させてやるぞという意気込みを持っていました。もともと明治維新を成し遂げた思想である「尊王攘夷」とは、天皇に代表されるアジアの心を失わず、欧米のような白人を排斥しようとする考えだったのです。

 それは、丁度現代の中国によく似ています。現在、アメリカの文化やものの考え方が世界の標準になろうとしています。しかし、元来、人間は多様なものです。共通のルールを作ることは必要ですが、全くおなじ文化で共存することはできません。それぞれの歴史や文化を尊重しなければなりません。アメリカの一極支配に異議申し立てをしている代表がイスラム諸国ですが、これとても一枚岩ではありませんし、元来は、旧約聖書の世界から出発した文化を持っていますから同じものです。これに対し、アジアは違います。覇権主義に対する王道政治、個人の契約を中心とする社会に対し、家族や人々の和を大事にし、義理や人情を大切にする社会がアジア、それも東アジアの儒教文明の特徴です。中国は、アジアの代表としてアメリカに対抗しています。

 日本は、明治以来、次第に近代化が進むにつれて、アジアの心を失って、欧米の真似をして、後進国のアジア地域を植民地として利用しようとする勢力が台頭してきました。アジア主義に対して近代主義の人々です。この二つの勢力は互いに牽制しあいながら時々の歴史の流れを作っていきます。アジア主義の人々は中国や朝鮮が早く近代化され、日本とともに欧米にたいしてアジアの文明観や価値観を提示する力となってほしいと思いました。孫文を日本に迎え厚遇したのはそのような人々でした。一方近代主義の人々は、大陸の資源を日本のために利用しようとしました。朝鮮を併合し、満蒙開拓団を組織し、侵略の計画を立てたのはその人々です。満州国という傀儡政権は、その二つの流れが微妙に絡み合っています。大東亜共栄圏の発想も同じです。ですから、アジア主義の立場に立てば、日本はアジアの解放と自立のために努力したのであって、大陸を侵略したわけではないのです。近代主義の人々は、侵略したことは承知していますが、これを認めたくはないのです。わずかに共産主義の人々が、侵略を認め、謝罪しようとしています。驚くべきことに最近、昭和天皇の生前の個人的な心情が暴露されましたが、昭和天皇は、中国に対し、間違った戦争を仕掛け、侵略をしたと認識しています。

 現在の日本では、戦争を知らない世代が75パーセントを越えました。彼等の多くは、過去の戦争に無関心ですが、関心のある人々の大部分は、日本はアジアのために正義の戦争をしたのだと主張します。彼等は当時のアジア主義者の言葉を引用して、これを主張します。しかし、皮肉なことにこのような日本人のほとんどは中国や朝鮮が嫌いで、アメリカが大好きです。これは何を意味するのか? アジア主義者でない人々が、自分達の都合に応じて、昔のアジア主義者の主張を利用しているのです。敗戦後の日本は、随分アメリカに洗脳されてしまって、アメリカの属州といっても良いくらいです。違うのは英語を話さないということくらいでしょう。

 中国は、過去の日本と同じように国の近代化を急いでいます。現代は過去と違って、近代化に必要な資本は、資本移動を自由にする環境を整えることによって、無際限に集まってきます。かっての日本が、19世紀末の中国との戦争に勝った戦時賠償金によって、重工業の基礎を作ったのとは大違いです。中国の皆さんは、人や物やお金がかなり自由に流通する環境にあることによって、容易に工業化、情報化の社会発展を達成することができます。しかし、このような近代化と共に、アメリカ的な考え方も入ってきます。旧来の伝統的な価値観や文化を守って、欧米の文明に対し、独自の文明観を打ち出せるかどうかは難しい問題です。しかも中国は一度、共産主義という欧米のキリスト教共同体の思想から生まれた考え方によって洗脳されています。中国の皆さんは、清や明の時代に一度立ち返って、中国の伝統を見直さねばなりません。

 これは、日本の伝統を語る時に、私たちが、明治以前の江戸時代の文化やものの考え方を顧みなければいけないのと一緒です。

 考えてみれば、日本と中国は、18世紀までの近代化以前は、極めて仲良くおつきあいができました。両国が近代化を目指して苦しみ出してから、いろいろな問題ができてきたのです。私たちは、近代史における双方の誤解を解きほぐすと共に、近代以前のアジアの文明観をもう一度見つめ直す必要があるとおもいます。

 最後に一つ、重要なことを申し上げたい。現代の地球は、温暖化を始めとする環境の危機にさらされています。現在の地球の気温は、百年前に比べて0.6度上昇しています。このままのペースが続き、中国やインドの経済発展、すなわち近代化が続けば、2030年には2度上昇し、2100年には5.6度上昇すると予想されています。そうなったら、人類は滅亡します。何らかの対策を立てなければならないタイムリミットは、実は今年なのです。ですから、人類は既に破局の一歩を踏み出したのです。少なくとも2020年までにこの上昇のペースを落とさなければ、座して死を待つことになるでしょう。この対策は、中国とアメリカの指導者が合意に達して、世界を導かねばなりません。日本の指導者がその仲介ができれば素晴らしいことと思いますが、難しいでしょう。ともかく、地球規模の合意形成が必要なのです。もうテロや戦争を起こしている暇はないのです。もう国とか民族とかを主張しあっている時代ではないのです。ここに集まっておられる皆さんもよく理解して頂きたい。ひと事ではない。皆さんの生きている間に崩壊が起きるのです。世論を形成し、指導者を動かし、地球規模の共存を達成しなければなりません。

 (2006/08/13)

中国論