宮司のブログ

こんにちは。日吉神社の宮司を務める三輪隆裕です。今回、ホームページのリニューアルに伴い、私のページを新設してもらうことになりました。若い頃から、各所に原稿を発表したり、講演を行ったりしていますので、コンテンツは沢山あります。その中から、面白そうなものを少しずつ発表していこうと思います。ご意見などございましたら、ご遠慮なくお寄せください。

中国の未来

2013年3月19日   投稿者:宮司

以下は、愛知県の神社関係の機関誌に2002年に投稿したものです。当時予想したように、中国の経済は、500兆円を超えました。果たして、今後はどのように推移するのでしょうか? また、日本は、アベノミクスで、公共投資に再び向かおうとしていますが、果たして借金は返せるのでしょうか?

 <日本と中国>

最近、中国へ行く機会を得て、数年振りに上海の地を踏んだ。東京を遥かに超える人口、林立する摩天楼の如き高層ビル群、整備された高速道路網を見ていると、経済浮揚という空域への中国の離陸を実感した。

 一方、日本では、その空域からの軟着陸が模索されている。

 日本では、中国の評価が一定しない。「日本を抜き、東アジア最大の経済大国となる」という論文がある一方、「領土の広さや国民の多種多様さからいって、遠からず分裂し、内戦に陥るだろう」という意見まで、極端に振幅が大きい。その理由は、一つは中国という国の多様性であろうし、もう一つは、日本人の中国に対する複雑なコンプレックスの故であろう。

 客観的に、数字で、中国と日本を比較してみよう。中国の人口は13億人、対する日本はその十分の一の1.3億人。中国は、一人っ子政策を行っているとはいえ、今後も人口は漸増するであろうが、50年後には激烈な高齢化社会に見舞われることになる。日本は、今後人口が激減し、50年後には現在の半分、6500万人となる。しかし、現在問題となっており、今後の20年間は対応に追われると思われる高齢化社会の問題は終焉している。現在の国内総生産(GDP)は、日本は500兆円、中国は230兆円程。経済成長率は、今後日本が0%、中国が7〜8%で推移するとして、10年後には、明らかに中国のGDPが日本を上回る。アメリカの一位は不動としても、中国が世界第二位の経済国家となるのは間違いない。

 一国の経済成長を規定するものは、資本の蓄積と投資、市場の開拓と資源の確保、良好な社会資本と政治制度などであるが、現代の世界では、先進国間では国家の壁が取り払われ、人、もの、金(資本)が自由に移動するようになった。中国もWTOに加盟し、先進国なみの法と社会制度を整備しつつある。一方、世界経済の総量の価値を保障するものは、既に、従来の金から米ドルによるバブルに移行しているので、信用の供与が保障され地球環境に歪みが出ない限り、世界経済は無限に膨張できる。

 このように考えると、安価で良質、かつ膨大な労働力と購買力の市場を提供できる中国が経済成長することは必然である。現在、既に、エアコン、カラーテレビ、冷蔵庫などの家電製品は、中国が世界最大の生産量を誇っている。今後、携帯電話、パソコン、軽乗用車、トラックなどの分野でも最大の生産国となるであろう。中国が「世界の工場」となるのである。

 一方、日本は、経済成長率0%を維持すれば、人口が減っていくので、一人当たり国民所得は増える。しかし、現在世界一の水準の一人当たり国民所得がそれ程簡単に増えるとは思われない。よほど付加価値の高い技術がこの国で次々と生み出されれば別だが、高齢化と少子化が進み、子供の教育も「ゆとり教育」といわれる現状では、それは望みがたい。

 そうなると、一人当たり国民所得が現在のままの水準で維持できるとして、50年後には日本のGDPは現在の半分、250兆円となっているはずである。50年かけて経済規模が次第に縮小し、恐らく中国の何分の一かになるのである。現在、国と地方を合わせて1000兆円といわれる公債の支払いが危ぶまれ、日本の信用力に疑問符が付けられる根本的な理由がこの辺りにある。

 10年後の中国のGDPは500兆円を超えるであろうが、50年後のそれを予測するのは難しい。もし人口が現在と同水準で、日本と同程度の一人当たり国民所得を得るのであれば、中国の50年後のGDPは5000兆円を超えることになる。多分それは不可能であり、環境問題の制約などから、1000兆円程度となるのではないか? その場合、日本の生活水準は、借金に押し潰されない限り、50年後でも中国の5倍ということになる。

 現在、日本政府が為さねばならないことは、このような展望に立って、経済成長の為に借金を重ねて景気刺激を行うという従来型の政策から、経済規模を維持しつつ借金を解消していく政策へと転換することである。

 中国と比較しながら、今後50年間の日本の経済の行方を展望したが、これによって神社界の今後も見えてくる。

 現在、950万体頒布の神宮大麻は、人口と世帯数の減少によって、半分に減るとみるのが妥当である。

 神社によってバラツキはあろうが、神社界全体でいえば、世代交代と、神社や宗教に無関心な教育の現状による神社に対する知見の低下を考えるとき、それを神社本庁を中心とする啓蒙活動で補ったとしても、神社全体に対する日本社会からの資金供与は半分くらいに減るであろう。

 このような未来の状況が予測されるとき、現状の神社、神職の組織と体制で、果たして今後の50年を乗り切れるであろうか? 甚だ心もとない。今こそ、神社界の総力を結集して、今後50年、100年の体制を再構築するときであろう。

(2002/08)

中国論