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資本主義社会の成熟と階級の溶解

資本主義社会の成熟と階級の溶解

 マルクスは、資本主義が成熟すればするほど、資本家と労働者の階級対立が鮮明になって、必然的に労働者革命が起きると予言したが、実際の歴史はそのように進まなかった。

 資本主義社会は成熟するにつれて、改良され、労働者の人権や政治参加を保障する体制を作った。雇用者と被雇用者は対等の立場で市場に参加するようになった。市場経済は放任から、政府による市場操作により好不況の波が抑えられる構造に変わっていった。

 さらに、階級の複雑化が進んだ。それは、日本で言えば、小作農が、農地解放により小規模地主となり、さらに都市化とともに、都市近郊のアパートを経営する資本家となっていったということが典型である。すなわち農民は同時に資本家となり、階級は複雑化していった。こういった複雑化は、成熟した資本主義社会では、同じように起きた。

 労働者は、経済の進展とともに、ブルーカラーとホワイトカラーの二層構造となり、中には独立や起業によって、小規模の資本家となり成功する人々も出てきた。また、優秀な労働者は、自社株を報酬として受け取り、あるいは貯蓄を使って他社の株式を保有し、さらに投資を成功させ富裕層となって、資本家と労働者の境界は曖昧となった。

 こういった階級の複雑化に伴う社会構造の変化は、グローバル化によりさらに急激となり、アイデアだけで短期間に億万長者になるような人々も出現しだした。階級の溶解が始まったのである。

 人々は、社会の革命的で暴力的な変化を嫌い、漸進的で穏健な変化を優先するようになった。

 1960年代から70年代にかけて頻発した学生運動は影を潜め、労働組合の実力行使も少なくなった。なお、日本の組合運動の脆弱化については、中曽根内閣(1982~87)による公労協の解体が大きな役割を果たしたが、それ以上にバブル経済によって異常なマネーサプライの激増が起きたことが大きな要因であった。

 21世紀に入って、全般的に社会は穏健化の方向に進んでいた。これは、中産階級に属し、そこそこの収入で満足する生活を送る人々が増加したことに起因すると考えられる。また、世界中の戦争や内乱といった暴力は、年毎に減る傾向を見せていたが、22022年以降、ウクライナや中東の紛争が始まり、増加の傾向に転じた。今後はどちらへ進むのか? つまり、反グローバルのうねりがどの程度で収まるのかが問題である。

 1995年をピークとして、世界の貧困層は激減しだし、変わって中間層が劇的に増加している。

 世界のGDP、すなわち生産力が21世紀に入って劇的に増加していることを見ればそれらが理解できる。これらは、前著「グローバル化と現代社会」に詳細を記した。

 改めて現在の資本主義社会の課題を見てみよう。階級の溶解により、階級対立を軸として社会構造を理解することはできない。

 課題は、社会に参加する諸個人の平等と自由をいかに保証するかという問題である。労働者の人権を重く見るところから修正資本主義が始まったように、現在の新自由主義に基づく経済社会は、労働者の立場の平等を充分に担保していないので、これを、中間層の増加、労働諸条件の規制、税制改革などにより、プレカリアートのような社会的弱者の人権を保障し救済できる社会に変えていかねばならない。今後の改良が期待されるが、これらは国連ILOが主導し、世界規模で取り組まれる必要がある。(2024/09/18)

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