日本

マッドマンの破壊

マッドマンの破壊

 いよいよマッドマンによる世界の破壊が始まった。

 トランプ第一次政権の発足のおり、私は、ブログで「現状に不満を抱き、一度世界を無秩序の状態に落とし込み、これを再編することによって、自身の立場を変えようとする人々は密かにほくそ笑んだ」と書いた。

 今、それが現実化している。第一次政権の折は準備不足で、破壊に至らず、民主党バイデン政権による回復に道を譲ったが、今回は、準備万端であって、矢継ぎ早に政策を現実化し、世界の破壊に向かって邁進している。

 これを、トランプ買い被りの人々は、いずれ素晴らしい成果が出ると勘違いしているようだが、そのような現実があるはずがない。米国の破産と崩壊が間近に迫っている。

 幸いなことは、トランプ氏は経済戦争は好きだが、本当の戦争は好まないようであるので、米国がその崩壊を逃れるために物理的な戦争に打って出る心配はないことである。

 わざわざ書くまでもないことだが、歴史を知らぬ読者のために、二、三点を指摘しよう。トランプは自称タリフマン、関税主義者というが、彼が先輩のタリフマンと尊敬する第19代米国大統領のマンキンリーは、関税を掛けまくった。しかし、マッキンリーの関税法は、平均税率45%強というそれまでにない最高税率を記録するとともに、互恵通商条項によって相手国に関税引下げを迫るものであった。彼が評価されるのは、結果的に自由貿易の推奨に舵を切った点である。

 トランプも、同様に関税を相手国に関税の引き下げを迫る道具とするのであれば、それなりの意味がある。しかし、現在は、GATTの自由貿易体制が世界経済の形であり、基本的に関税障壁は存在しない。そこで、トランプは、移民政策や麻薬流入を制限するための武器として関税を使おうとしている。

 GATT(ガット)は、General Agreement on Tariffs and Trade の略。1948年1月に発効した。第二次世界大戦前の資本主義諸国がブロック経済を形成して、互いに高関税政策をとって世界経済を停滞させ、軍事力に依存した抗争対立に転化したことを反省し、「自由・無差別」な世界貿易体制をつくり各国の経済を成長させて雇用を安定させることが必要であるとして結ばれ、それを維持するためにWTOが作られた。この自由貿易体制の基礎は、強い基軸通貨としての米ドルの存在であった。USAIDが世界の開発援助をサポートしてきたのも、こういった米国主導の世界の安定という了解があったからであって、今、それをトランプが破壊している。

 イーロン・マスクやバンス副大統領はリバタリアンである。 リバタリアンの主張は、政府は小さく、市場に介入しないということである。これは、古典経済学でいうインビシブルハンド、レッセ・フェールであって、市場は介入しなければ自然にうまく成長するということである。ロストウの近代化理論とも通じる。そして見事に間違っていることが歴史的に証明されている。

 そのために、近代経済学では、政府が市場に関与することが当然のこととされている。市場操作によって、好不況の波を抑え、安定した経済成長を保証しようとする。

 つまり、トランプのやっていることは、人類が歴史的にも、学問的にも積み上げてきたことを無視して、すでに失敗した方法を使って社会をいじろうとしている。間違いなく失敗する。世界はその失敗を固唾を飲んで見守っている。(2025/03/11)

関連記事

PAGE TOP