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トランプ政権の正体

トランプ政権の正体

 ドナルド・トランプ氏が米国大統領に再登板することが決まって以来、巷では、トランプ政権がどのような方向に進むかが、さまざまな観点から論じられている。

 一様に、彼が共和党の大統領候補に指名されてからの発言を元に、米国の外交姿勢の変化、特にウクライナとイスラエルへの対応、諸外国からの駐留米軍の撤退乃至は各国の米国への防衛力分担金の増額、中国その他の米国への貿易輸出過多の国々に対する関税強化措置、国内の企業や富裕層への減税、インフレ抑止と雇用保障の国内経済政策、不法移民の強制退去といった方向が論じられるが、決まって最後は、トランプ氏は気が変わりやすいので、実際にどのような政策が採用されるかは予断を許さない、つまりわからないということで、締めくくられている。

 そこで、本稿では、次期トランプ政権の中核をなすであろう人々の思想背景をもとに、どのような政策がとられるであろうかを考えてみる。

 次期トランプ政権が第1期と異なり、かなりイエスマンに近い、トランプの意思に従順な人々で占められるであろうことは以前から指摘されていた。そして、上院も下院も共和党が勝利し、オールレッドとなったために、次期トランプ政権は、まさしくトランプの思い通りの政策が実現できる環境にある。

 しかしながら、注意深く見てみると、今回のトランプ政権の成立に大きな力を貸した人々の存在が目に付く。

 池田純一氏の米国の実情を踏まえたレポートによれば、10月の1ヶ月に劇的に世論はハリスからトランプ支持へシフトした。それを支えたのは、イーロン・マスクを中心としたテクノロジー・エリートたちのトランプ支持である。

 米国を支配する勢力は、かつては軍産複合体とエネルギー企業、つまり、軍需産業や石油メジャーであると考えられていたが、20世紀末から劇的に変化した。最初に頭角を表したのは、ウオール街を支配する金融資本であり、次にカリフォルニア・バークレーを拠点とするIT産業資本である。

 後者は、IT革命の潮流に乗って、ビングテックと呼ばれる巨大ITメジャー産業を形成し、その創始者たちはすでに米国の富の50%以上を占有している。

 これらの新興資本は、当初民主党と結びついた。ヒラリー・クリントンを大統領に押し上げようとしたのは、ウオール街であったことは周知の通りである。

 ビッグテックを創った創業者たちも、ビル・ゲイツを除けば基本的に民主党の支持基盤となった。それゆえに民主党は労働者大衆や人種的マイノリティを見放したのであって、そこを突いて大統領となったのが、第一次トランプ政権であった。

 最近、新しいテック・エリートが現れ、彼らは、ビッグテックを創ったテック・エリートたちを排除して自分たちが米国のヘゲモニーを握ろうとして、今回、第2次トランプ政権を実現させた。ピーター・ティールやイーロン・マスク、そして副大統領となるJ・D・バンスである。

 では、彼らの思想は何か?一言で言えば、強烈なリバタニアリズムであり、彼らはリバタリアンである。

 リバタニアリズムとは何か?それは、個人の経済的・政治的自由を極限まで追求する考え方である。物質的な私有財産権を侵さない限りの自由を求めるので、通常のリベラリズムと異なり、人権や平等への配慮は存在しない。小さな政府を理想とし、税の徴収や社会福祉もなくすべきと考える。市場への政府の関与を否定し、アダム・スミスの「見えざる手」流のレッセ・フェールを理想とする。自由な経済競争の勝ち組は永遠に勝ち続け、負け組は保護されない。

 これらの視点から見ると、第2次トランプ政権の特徴が見えてくる。ちょうど今、マスク氏が新しい政府効率化省のトップに就任というニュースが入った。まさしく、小さな政府の実現を目指すのであろう。

 市場操作を否定するので、FRBの無力化を図ろうとする。また、所得税や法人税の減税を行う。したがって、政府の歳出は削減せざるを得ない。当然、国防や社会福祉の歳出は切り詰められていく。国防費の支出が少ないということは、米軍の世界警察的な役割を否定し、一国主義に閉じこもることとなる。社会福祉費を削減するために移民をなくし、関税や法改正により自国産業を保護する。

 以上のような政策の方向が予想されるのである。もちろん既成勢力の反発も激しくなるであろうから、一方的にこのようにはなるまい。しかし、議会と政府がトランプ色であるので、米国は徐々にこの方向にシフトしていくこととなる。その中で、捨てられていくのは、物価の安定を望んだ米国の大衆であり、安全保障の拠り所として米国に頼っていた民主主義国であろう。

 幸い、リバタリアンは政治的な自由をも求めるので、米国が権威主義の方向へ向かい、秘密警察などで国民が監視されるような社会にはなるまい。最もトランプ自身はその方向を好むであろうが。

 では、こういった方向に米国の舵が切られた時、その結果はどうなるのか?歳出の膨大な削減は、米国の世界のトップリーダーとしての権威を失墜させ、減税は米国の経済成長を促し、保護貿易は輸入物価の高騰を招き、共に米国経済のインフレ圧力となって米国国民大衆の不満を募らせるであろう。FRBの役割を否定する自由放任の経済政策は、移民の排斥による労働者不足と相まって、結果的に米国経済に長期的に大打撃を与え、ドルの国際通貨としての地位も揺らぐであろう。
 
 そこで、第2次トランプ政権への期待を裏切られた労働者大衆が、2026年の中間選挙ではトランプを離れ、対抗勢力に投票することが予想される。民主党がそのように準備できるかどうかが問われることとなる。日本を含めた諸外国は、米国の急変に対してどのように対応するか、喫緊の課題が生まれてくるであろう。(2024/11/14)

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